2013年の1月下旬から2月末にかけて、特集記事のためにSIベンダーを中心に30社以上を取材で回った。1本の記事のために30社以上も取材したのは10年以上ぶりのことでかなり疲れたが、さまざまな「現場の生の声」を聞くことができ、得られたものも非常に大きかった。今回の記者の眼では、それら現場の声の中から「若手ITエンジニア育成」に関する話題をお届けしよう。

 取材に対応してくれた経験豊富なプロマネ(PM)の多くが、この若手ITエンジニアの育成問題で悩んでいると打ち明けてくれた。悩みというのは、よくある「最近の若者は……」といった後ろ向きな愚痴のたぐいではなく、「次を担う若手を積極的に育成したいのだが、最近のIT現場環境が自分たちのころと大きく異なっているなどの理由により、なかなか難しい」という前向きな悩みである。

若手を現場に入れてじっくり育てる余裕がない

 IT現場環境の変化とは具体的にどんなものか。まず一つに、「長期間にわたる新規の大型システム構築案件が減っている」ことが挙げられる。数年単位で構築するような大規模システムであれば、新人や若手のエンジニアを勉強のために現場に入れることが比較的容易だった。しかし、「最近はそうした新規の案件よりもシステム更改案件の方が多く、また、短納期で小規模な案件も増えているので、若手をアサインしてじっくり育てるのが難しい」と、あるソフトウエアベンダーのPMはこぼしていた。

 「パッケージソフトやクラウドサービスの普及」が、若手エンジニアを以前よりも育てにくくしていると指摘するベテランPMもいる。パッケージソフトやクラウドサービスを使ったシステム構築でも、技術的な専門知識はもちろん必要となるが、スクラッチで開発するよりはずっと少なくて済む。

 だが、その裏返しとして若手エンジニアが自ら勉強し、習得し、ときには失敗し、経験を積める余地が少なくなっているのは事実である。「技術の深いところを知らないので、ちょっとレイヤーの低いトラブルが起こると手も足も出せなくなる若手が増えている。だが、それはそうした学習機会が少ないのだから当然だ」とそのベテランPMは嘆いていた。

 「技術分野の細分化」を若手育成を難しくしている要因の一つに挙げるベテランPMもいる。上記クラウドサービスの土台となっている各種仮想化技術をはじめ、データベース技術やストレージ技術、ネットワーク技術、プログラミング言語、ソフトウエア開発手法など、現在ではそれぞれの技術分野が高度かつ非常に細分化しており、どれか一つの技術をキャッチアップするのでさえ精一杯という状況である。「昔は、たとえば『汎用機一筋15年』といったベテランが必ずいて、若手を付けて学ばせればよかったが、今はそうした時代ではなくなった」とそのPMは語っていた。

 その他、オフショア開発が普及したことを要因の一つに挙げるPMもいる。「コストやスピードの面でオフショア開発のメリットは大きく、オフショアが使えそうな案件なら、積極的に使うようになっている。その結果、入社1年目から外注管理ばかりやることになり、開発に関して自ら手を動かす機会がほとんどないようなSEが生まれてしまう。こんな状況ではなかなか若手を育てられない」。

「5年後を見据えて保守運用部隊に残す」などの工夫

 こうした環境の変化により、若手ITエンジニアを育てにくくなっているのは事実だが、教える側ももちろんただ嘆いているばかりではない。難しくなっていることを認識しつつ、それを乗り越えるべく様々な工夫により若手ITエンジニアの育成に取り組んでいるベンダーがたくさんある。いくつかのベンダーの取材では、そうした若手育成のための取り組みや工夫について話を聞くことができた。