混み合う駅の改札口。我先に通り抜けようとする人の顔、顔、顔──。

 まずは写真1をご覧いただきたい。これは、世界トップレベルの顔認証技術を誇るグローリーが、駅で実地検証した時の様子だ。

 人の顔にかぶさるように、赤色や青色の枠と数字が見える。これは、グローリーが顔認証技術を応用して開発を進めている「人の性別と年齢の推定システム」を利用したもの。時代はもう、ここまで来ている。

写真1●システムの利用例
駅の改札を通る人たちの動く映像から人の顔だけを識別し、しかも性別と年齢を自動推定している。青色が男性、赤色が女性、数字が年齢を示す。顔認証技術を持つグローリーが駅に許可を得て実験した時のもの
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 グローリーの顔認証技術は、セキュリティ業界関係者の間で評価が高い。システムに顔写真を登録すると、人混みの映像の中からでも、簡単に本人を見つけ出せてしまう。厳重な入退館管理が求められるビルなどでは、特に重宝される。

 認証精度は99.99%以上といい、顔が似ている「他人」と間違える確率が非常に低いのが特徴だ。この他人識別率が顔認証の技術力の高さを測る、1つのバロメーターになっている。

 一口に顔認証といっても、デジタルカメラなどに搭載されている「人の顔かどうか」を判別する簡易的なものから、それこそ本人かどうかを識別するものまで、幅広いのが実情である。

 その点、グローリーは本人照合の一本に絞って、技術開発を続けてきた。同社が顔認証する際は、顔の100カ所以上のポイントを照合するという。

 すると面白いことに、芸能人のようにサングラスで目を隠していたり、かつらをかぶっていたり、さらには化粧や髪型、アクセサリーで顔の“見かけ”を変えていても、「顔全体をマスクなどで覆い隠しているようなことがなければ、ちゃんと本人を識別できます」と、新事業推進統括部新事業営業部生体事業2グループの森京太郎グループマネージャーは自信を持って答える。

 そこが人間が持つ顔の識別能力と、顔認証システムの大きな違いだ。人は見た目の際立った特徴に、受け手側の印象が大きく引きずられてしまうため、化粧や髪型が変わるだけで、本人かどうか分からなくなることがある。脳は目立つところを中心に認識してしまう。だがそれは、いわば錯覚である。

 しかし、コンピュータは違う。いつでも先入観なく、100カ所の顔のポイントを照合していくので、変装を苦にしない。「アクセサリーなどで顔のワンポイントが違っていても、その人の顔の本質は変わっていない」(森グループマネージャー)。だから、本人を特定できる。

 それって、本当か?

 企業のセキュリティ担当者なら、そう突っ込みたくもなるだろう。実際、グローリーにコンタクトを取ってくるセキュリティ担当者は、日頃から監視業務などに携わる専門家ばかりだ。技術をよく勉強しており、かつ疑い深い。

 そこで森グループマネージャーは商談中、自らサングラスやかつらで変装し、自社の顔認証技術を体感してもらうことにしている。すると「これはすごい」となり、セキュリティ担当者が身を乗り出してくる。そして、自分でしかめっ面をしたり、“変”な顔をしたりして、顔認証システムを困らせようとする。

 これは「成約の感触あり」のサイン。相手がグローリーの顔認証技術に食い付いてきた証拠だという。そこで“変”な顔をしても識別できてしまうから、商談が進む。秘訣はグローリーの3次元の顔認証技術にある。上下左右から見た「斜め顔」でも認証可能なのだ。