先日、日経コンピュータ3月7日号の特集「スマホファーストで変革を起こす」の取材で、スイスの製薬大手の日本法人であるノバルティス ファーマを訪問した。同社は世界各地で医薬情報担当者(MR)向けにiPadの導入を進めており、日本国内でも2013年1月、約2300人のMR向けにiPadを導入した。

 単に「営業部門向けにiPadを大規模導入」ということであれば、もはやありふれたニュースかもしれないが、同社の取り組みは一歩進んでいる。PCを撤廃したのだ。

 iPadを配布すると同時に、それまで会社から支給していたノートPCをMR全員から回収したという。オフィスに自席はあるが、そこに会社支給のPCはない。すべての業務をiPadでこなすという思い切った決断を下した。

 予想通り、現場のMRからは「プレゼン資料が作成しにくくなる」「文字入力がしにくい」などの不満が出たという。同社 情報システム事業部 マーケティング情報システム推進部 部長の鈴木幸二氏は「確かに一部の業務についてだけ見れば、ノートPCからiPadへの置き換えで効率が落ちる部分はあるかもしれない。しかし、営業日報の作成作業など、iPadへの置き換えで効率化される業務は多い。メリットが上回ると判断した」と語る。

 同社では多くのMRが従来、顧客への営業活動以外に、営業日報の作成といった事務作業にかなりの時間を割いていた。iPadの導入と合わせ、経費精算から営業日報の作成までほとんどの業務をクラウド上でこなせるようにしたことで、本来の役割である顧客への営業活動に回せる時間が増えるとみている。

 こうしたiPadへの置き換えは日本法人の独断ではなく、同社ではグローバルレベルでの方針だ。多くの国でiPad導入は好意的に受け止められているそうだが、日本ではやはりPCへの執着が強いのだという。そこで国内では、独自に「ソフトランディング策」を用意した。具体的には、社内に5人に1台の割合で共有PCを新規導入した。さらに、仮想デスクトップ(VDI)のアカウントもMR全員分を新規に配布した。

 「日本では卸業者向けのセミナーなどでMRが講演することが多くあり、そのプレゼン資料の作成でどうしてもPCが必要な場面があった」(鈴木氏)。ただし、これらもあくまで期間限定の措置。プレゼン資料についても当日の聴衆に合わせた導入部分のスライドは手作りする必要があるものの、それ以外のスライドは共通化することで、PCでの講演資料作成は必要なくなると同社はみている。