答えは、ロボット掃除機だ。ここ2~3年で、日本でもすっかり市民権を得た製品である。もはや「主婦の手抜きの道具」などと言う人はいない。
その証拠に、家電量販店に行くと円盤型のロボット掃除機が専用ステージに毎日“出演”している(写真1)。会いに行けるアイドルならぬ、会いに行けるロボットとでも言うべきか、その“丸顔”は、家族連れなどに大人気だ。もちろん、購入すれば、家に連れて帰れる。
店員が手伝わなくても自ら「動く」家電は、来店客の関心を強く引き付ける。ロボット掃除機は、広い店内で来店客の足を確実に止めさせる、キラーコンテンツになっている。しかも、電池が無くなりそうになれば自分で充電器に戻るので、手間もかからない。
ロボット掃除機という、これまでになかった「ブルーオーシャン(未開拓市場)」を切り開いたのが、国内シェアの約8割を握る「ルンバ」だ。今回は、このルンバの話をしてみたい。
新型の体重計か?いやいや、掃除機です
ルンバを開発したのは、米アイロボットである。マサチューセッツ工科大学(MIT)で人工知能(AI)を研究していた科学者3人が、1990年に設立したベンチャー企業だ。20年にわたるロボット開発の実績があり、特に軍事目的のロボット開発には定評がある。
そして今、アイロボットは、ルンバの開発元として世界中に知られる存在になった。2011年には、東日本大震災で事故を起こした福島第一原子力発電所に入る内部探査ロボットを日本に提供して、話題にもなっている。
高い技術力を誇るアイロボットだが、販売活動は総じて苦手だ。そこで日本では、セールス・オンデマンド(東京都新宿区)が総代理店になって販売活動をしている。同社の木幡民夫社長は言う(写真2)。
「日本人はロボットというと、2足歩行ができる人型ロボットをまず思い浮かべるでしょ。円盤型のルンバが日本で受け入れられるようになるまで、10年かかりましたよ」
何せ、ロボット掃除機はそれまで世になかった製品だ。2004~2005年頃、木幡社長がルンバを持って販売店などに売り込みに出かけると、相手からは「新型の体重計ですか?」と真顔で尋ねられることが多かった。円盤型だったからだ。今なら「体重計か」などと言ったら、逆に笑われるに違いない。
というのも今では、ルンバを「家族の一員」として迎え入れている家庭が増えたからだ。ちなみに、私の家にもルンバがいて、毎朝6時半になるとタイマーで自ら目を覚まし、夜中に床に落ちたほこりを掃除しておいてくれる。
木幡社長はうれしそうに、こう続ける。
「ルンバを使っている家庭の多くが、ルンバに名前を付けているそうですよ。ロボットと単なる物の違いは、ペットのように名前を付けるかどうかではないでしょうか」
私は名前までは付けていないので、他の人よりもルンバに愛着が薄いのかもしれないが、気持ちは理解できる。