今から5年前の2007年11月に、「10年以内に社内で運用されるサーバーは、ほとんど無くなる」と予言した人がいた。その予言に従えば、社内サーバーが無くなるまであと5年という計算になる。記者は、この予言の実現可能性は高いと考えている。既に日本でも、システムをパブリッククラウドに全面移行するユーザー企業が、続々と登場しているからだ。

 5年前の予言の主は、米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEO(最高経営責任者)である。来日したバルマーCEOは、パートナー向けのカンファレンスでこのような旨の発言を行い、記者を含む聴衆の度肝を抜いた(関連記事)。

 記者はそれ以来、クラウドのことを追いかけ続けている。最近は本当に、パブリッククラウドが「当たり前」の存在になったと感じている。

 例えば、2012年9月からERP(統合業務パッケージ)の「SAP Business All-in-One」を「Amazon Web Services」で稼働し始めたUMCエレクトロニクスの須藤健情報システムグループ課長は、「SAPジャパンからAWSを勧められた」ことが、AWSを導入したきっかけだったと語った。

 「基幹系システムはクラウドに乗るのか?」は、もはや愚問だ。ERP最大手のSAPが、AWSでの「SAP ERP」などの稼働に太鼓判を押している(関連記事)。2012年9月には、SCSK、電通国際情報サービス(ISID)、野村総合研究所(NRI)という大手システムインテグレータが「AWSはFISC基準に適合可能」と言い出した(関連記事)。

 スマートフォンを使ったクレジットカード決済サービスを提供するベンチャー企業のコイニーは2012年12月末、AWS上にクレジットカード決済システムを構築して、カード決済システム用のセキュリティ基準である「PCI DSS(PCIデータセキュリティ基準)」の認証を受けた。パブリッククラウド、特にAWSに関しては、「技術的に乗せられないシステムは無い」と言っていい段階に来ている。

 ユーザー企業がもし、「当社のソフトはAWS上で稼働できない」と言うパッケージベンダーに出会ったら、その主張は疑ってみた方がいい。興味深い証言を紹介しよう。

 ミサワホームの宮本眞一情報システム部長は、システムをAWSに移行するに当たって、「AWSで稼働できない」と主張するパッケージベンダー数社に対して、「AWSで稼働できない理由」を、書面で報告するように求めた。するとパッケージベンダーの主張は、当初の「AWSで稼働できない」から「パッケージソフトのAWS上での稼働を検証していない」に変化し、最終的にはAWSでの稼働をサポートするようになったという。

 先進的なユーザー企業は、さらに先を見据え始めている。東急ハンズの長谷川秀樹執行役員は、「早くLANを無くしたい」と語る。同社は情報系システムは「Google Apps」に移行済みで、現在は業務系システムのAWSへの全面移行を進めている。社内システムのクラウド移行が完了すれば、社内のパソコンや店舗にあるPOSレジといったクライアントが通信する先は、すべてクラウドということになる。クライアントはインターネットに接続さえできればいいので、社内通信のためのネットワークが不要になるというのが、「LANを無くしたい」という主張の真意だ。

 記者は長らく、ユーザー企業に「クラウドを導入した理由」を質問してきた。しかし、今さら「スマートフォンを使う理由」を問う人がいないように、記者がクラウドの導入理由を聞く機会も、今後は少なくなりそうだ。