大塚商会の業績が好調に推移している。2012年度(12月期)の売上高は前年度比で7.9%増の5157億円、経常利益は同24.7%増の290億円となり、3期連続の増収増益を達成した。売上高は過去最高を更新している(表)。

表●大塚商会の売上高と経常利益の推移
単位は億円
2007年度08年度09年度10年度11年度12年度13年度(計画)
売上高4694467142994634478251575360
経常利益305276164195233290310

 IT業界が比較的好調だった07年度の売上高をその後超えられた国内の有力IT企業は、実は少ない。しかもM&A(企業の合併・買収)を実施せず、自力で更新できたIT企業は大塚商会以外にはおそらくないだろう。国内のIT投資が抑制されているなかで、大塚商会がいち早く業績を回復させ、成長軌道に戻せた理由はどこにあったのか。

 同社の大塚裕司社長は2013年2月1日の決算説明会で、「S-SPR(サポート-セールス・プロセス・リエンジニアリング)」による保守サポートの改革効果に秘密があると明かした。

 いったい、S-SPRとは何なのか。

マルチスキルを身に付けた保守技術者

 S-SPRは具体的には、保守技術者のマルチスキル化(多能工化)によるワンストップなサポートを実現したことを指す。分かりやすく言うと、複写機の保守技術者がサーバーなどの保守も受け持ち、逆にサーバーなどの保守技術者が複写機の保守も担えるようにした。

 同じ顧客企業に複写機とサーバーのそれぞれの保守技術者が別々に訪問する必要がなくなれば、生産性は確実に上がる。しかも顧客にとっては、たびたび訪問を受ける煩わしさが減るので、満足度が向上する。単純なことなのだが、実現は容易ではない。

 S-SPRは大塚商会が03年11月に議論を始めて、07年に保守技術者のスキルアセスメントの管理、09年には最適な保守技術者を自動アサインする仕組みを作り上げるなど、保守プロセスの改善に積極的に使ってきた改革手法である。併せて、「4年かけて、お互いの技術を共有化し、1人の技術者が全ての機器に対応できるようになり、仕事の偏りをなくした」(大塚社長)。

 もちろん、解決できない難しい問題もある。その場合は、後方に控えている部隊が対応する体制まで整えた。

 結果、大塚商会は保守技術者を増やさずに、保守サポートする機器台数を増やせた。例えば、保守技術者1人当たりの複写機の保守台数は、09年と12年で比べると13%増えている。保守技術者の稼働時間も、自動アサインやモバイルの活用などで向上したという。

 この間に複写機の台数は1万台以上に増えている。もしS-SPRがなかったら、300人以上の保守技術者を増やす必要があったというのだ。