NHN Japanによる無料音声サービスとしてスタートした「LINE」が1月半ばに1億人を突破した。今では総合的なコミュニケーション・メディア・サービスとして、国内外で発展を続けている。同様のサービスは、DeNAやグリーも参入しており、百花繚乱の状態だ。

 当初は、モバイルインフラ逼迫の主要な原因の一つと見なされ、通信事業者によるVoIPサービスへの規制も懸念された。また端末の電話帳データをサーバー側に吸い上げてマッチングを支援することに対し、プライバシー侵害を懸念する声も聞こえていた。

 それでも結果として、利用者の支持を急速に集めて今日に至っている。

 こうなると通信事業者もその存在を無視できないだろう。スマートフォン上で欠かせないサービスになれば、むしろその利用を前提として、効率的なインフラの運用さえ求められるのが市場競争というものである。

インターネットは市場原理で変化

 この傾向はインターネットの世界では既に顕在化している。

 いわゆるハイパージャイアントと呼ばれる、米グーグルや米マイクロソフトなど特定の巨大事業者が、全世界のトラフィックの半数近くを消費していることはよく知られている。それだけ消費者の支持があるならば、よりこれらのサービスにアクセスしやすい回線のほうが市場では好まれる。当然インターネット接続事業者(ISP)は、ハイパージャイアントとの直接のピアリングを求めるようになり、インターネットの構造は、巨大なトラフィックを発生させる特定事業者を中心とした形へと変化しつつある。

 通信事業者のネットワークである携帯電話網は、インターネットとは構造が異なる以上、ここまで劇的な変化は起こらないかもしれない。しかし、インフラの運用方針やデザインに対する、通信事業者とサービス事業者の力学の変化という観点では、携帯電話網でも今後、似たようなことが起こるだろう。

 このような変化を実感する出来事も実際に起きている。この年末年始、KDDIのLTE(Long Term Evolution)網で起こった大規模な障害だ。直接の原因は通常時に比べて7倍ものアクセスが集中したことで、加入者プロファイルサーバーがバッファーオーバーフローを起こし、セッションの切断に伴う再接続の増加で輻輳が生じたという。

 ただKDDIのLTE網は、現在その多くをiPhoneが利用している。同社は言及していないが、通常の7倍ものアクセス集中は、KDDIのネットワーク側でLTE版iPhoneの特性に合わせた最適化が十分でなかった可能性もある。もはや主従が逆転し、携帯網側がiPhoneのような人気端末に合わせてチューニングを施す時代に入っていることは、他社の例からも分かるからだ。

関係者間での協調が求められる

 この推測をもって、誰かの責任を追求したいわけではない。むしろここで考えるべきは、サービスや端末、回線をそれぞれバラバラに管理していた時代が、そろそろ限界に近づいているということである。

 インターネット時代のサービスや端末は、必ずしもインフラをあらかじめ想定して設計されているわけではない。しかし利用者がそれを支持する限り、サービスを提供しなければ、市場競争には勝てない。

 その一方でインフラに対する考慮があまりにも足りなければ、そもそもサービスが成立せず、多くの事業者が収益機会を失うことになる。これは端末についても同様で、「作りっぱなし」ではもはや品質は維持できないだろう。

 これまでバラバラに事業を進めてきた事業者たちが、どのように協調関係を構築していくか。その模索が今年の通信産業の課題となりそうだ。