日本企業がダイバーシティの推進に注力している。ダイバーシティとは、ここでは企業における多様な人材、多用な働き方を意味する言葉として使っている。その最たる例が女性活用だ。目的は少子高齢化の中で労働力を確保すること、そして優秀な社員の流出を防ぐことである。

 男女雇用機会均等法が成立して26年。時短勤務や育児休暇の充実を活用して復帰し、最前線で働く女性管理職も徐々に増えてきた。

 例えばテンプスタッフの田辺えり子インターネット企画室室長は、時短勤務制度を10年間利用していた経験がある。田辺室長は自身の経験を生かし、時短勤務制度を利用する社員を戦力として積極的に活用する。

 インターネット企画室の役割は、各部署の依頼に応じてサイト計測システムやメール配信システムを導入すること。時短勤務制度を利用している女性社員にも導入プロジェクトを任せている。

 導入プロジェクトは短期とはいえ3カ月はかかる。そのため、たとえ子供が体調を崩して1週間休んだとしても、十分挽回するだけの時間はある。出勤できなくても、資料作成など自宅でこなせる作業もある。「時短制度を活用すると同僚に迷惑をかけることが多い。仕事を任せることで達成感を味あわせたい」(田辺室長)。男性管理職のなかには「時短勤務の女性に仕事をどう割り振ればよいのか分からない」といった声もある。自分自身も経験がある女性管理職の方が取り組みやすい。

 さて、ここまでは、日経コンピュータ12月20日号の特集記事「強いIT職場の作り方 創造力&効率アップの鍵は女性にあり」で女性の活用を推進する企業を取材したことから得たエピソードだ。

オフショア開発の現場は日本人男性が少数派

 ダイバーシティというと、前述のように女性社員の活用という話になることが多い。国内企業の場合、一般には女性社員が少数派だからだ。だが日本人男性が少数派になりえる現場が存在する。海外企業で働くときだ。オフショア開発の活用や海外の販売拠点で現地社員とともに運営するからだ。現地では日本人が少数派となる。

 これまで国内では多数派としてふるまってきた男性社員が、突然少数派になるとどうふるまっていいのか往々にして分からない。さらに日本流も通じない。こうした際も、企業におけるダイバーシティーの推進が問われる。ここでカギを握るのが、現地社員をどう巻き込むかということである。

 まず中国を見てみよう。オフショア開発や製造拠点などを展開する企業が多く、拠点内で日本人は少数派になる。日本企業と合弁会社を設立している杭州東忠科技有限公司の丁偉儒社長は「中国人の技術者が日本人技術者と同じレベルではない。差を理解することが第一歩」と現地社員を巻き込むポイントを説明する。

 実際、維傑思科技杭州有限公司(ヴィンキュラム チャイナ)で働く新岡弘行副総経理は「違いを理解することから始めなければならない。会議でもニュアンスで伝えることは無理。絵に書くなどして確実に分かる方法で伝えるべき」と話す。

 次にインドはどうか。インドも中国と作業指示の方法が異なるという。インドのオフショア開発ベンダー、インフォシスで働く草川尚也クライアントソリューションマネージャーは10年間インド人と仕事をしてきた。2年目からコツが分かってきたという。そのコツとは仲介役となるマネージャーに依頼内容をしっかりと伝えることだ。マネージャーが理解すればチームを統率して作業がはかどるという。「インド人の場合、上司の話はよく聞く。指揮命令をはっきりすればスムーズに進む。プライドが高いので、決して怒らないこともポイント」(草川マネージャー)。

 インド企業でも働いた経験があり、いまはベトナムの企業とやり取りが多いオイシックス システム部の米島和広氏は「ベトナムは全員が納得しないと動かない」という。ベトナム人はチームで仕事をする意識が強く協調性が高い。「担当者が異動になっても品質を保てる利点がある」(米島氏)。

 こうした各国の特性を理解すれば依頼方法も変わる。日本で働いている時には「あうん」の呼吸で済むことが多い。違いを理解することがグローバルで働くうえでのポイントである。