クラウド専用の基幹系システムが登場した。人事/給与/勤怠を一元管理するシステムで、開発したのは設立1年目の中小IT企業であるECMだ。日本IBMやニフティ、NTTコミュニケーションズ、アマゾン ウェブ サービスなど有力パブリッククラウドに対応する。既存のパッケージソフトをクラウド化するのではなく、クラウドだけに向けて開発した基幹系システムを提供するIT企業はまだ少ない。

 クラウドは、中小IT企業のビジネスチャンスを広げる可能性を秘めている。クラウド事業者のIaaSやPaaSを使って、システム構築やサービス提供事業を展開するビジネスモデルを構築できるからだ。高価なハードやソフトなどのIT資源を自ら調達する必要がなくなれば、個人の力で勝負できるようになる。企業規模ではないということだ。

 事実、中小IT企業が活躍し始めている。クラウド事業者が提供する情報系サービス(メールなど)を補完するSaaSを提供する企業が増えている。安価なIaaSを利用して業務システムを構築する中小IT企業も出てきた。サーバーワークスやソニックガーデンなどだ。ある業務に特化したサービスを展開する方法もある。そうしたなかで、基幹系へとサービスを広げる中小IT企業が現われている。その先陣をきった1社がECMだ。

たった1人でも大手に伍して戦える

 同社の人事/給与/勤怠システムの最大の特徴は、複数企業の人事、給与、勤怠を一つのデータベース(DB)で一元管理すること。時系列での管理もできる。加えて、英語や中国語に対応しているので、国内外にグループ会社を持つグローバル企業にも適する。製造業で使用する部品表のデータモデルを使って、同社の四倉幹夫社長が1人で開発に取り組み、パブリッククラウドで稼働検証してきた。2012年に日米で特許を取得したという。

 その基になっているのは、日本の電機メーカーや自動車メーカーなどに導入されているクラステクノロジーの生産管理ソフトECObjectsである。実は、クラステクノロジーの四倉社長がECMの社長でもあるのだ。ECMを独立会社にしたのは、両社のビジネスモデルが異なるからだという。パッケージソフトを販売するクラステクノロジーに対して、クラウド特化のECMは月額制のサービスが中心で、社員もあまり配置しない。売り込み先、売り込み方も違う。

 課題は、ECMに販売力も知名度もないこと。そこで、コンテンツが不足しているパブリッククラウド事業者と販売提携したり、OEM供給したりする作戦を展開している。日本IBMのPureSystemsのソリューションとしても登録されている。

 料金は、管理対象社員1人当たり月額1000円程度。オンプレミスで使う会計ソフト並みに設定したという。1年契約、5年契約のほか、セキュリティのレベルや冗長度など、システム構成によって料金は若干異なる。

 四倉社長は「クラウドをターゲットにした新しい形態のパッケージ会社を目指す」と意気込む。パブリッククラウドを使えば、たった1人でも大手に伍して戦えるサービス商品を開発し得る。その可能性をECMは示してくれた。