この連載では、「ダメに見せない説明術」を扱っている。前回は、四つ目のダメ説明である「理由がない、何故?が満載、説明が不足」をテーマに取り上げた。10のダメ説明は以下の通りである。

「10のダメ説明」

  1. 長い、細かい、テンポ悪すぎ
  2. 論点不明、主旨不明、結論なし
  3. 抽象的、具体的でない、表面的
  4. 理由がない、何故?が満載、説明が不足
  5. 独りよがり、自分視点、自己中心
  6. 遅い、ぎりぎり、時間なし
  7. 理解が浅い、内容が陳腐、質問されると沈黙
  8. 先を読まない、場当たり的、その場しのぎ
  9. 思想がない、考えがない、自分がない
  10. 反論する、否定する、対立する

 今回も「理由がない、何故?が満載、説明が不足」の続きである。

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 前回は、「自分の常識が他人への説明不足を産む」ということを、エピソードを使って説明した。「説明不足」は「前提を知らず知らずのうちに省略してしまう」という説明者の無意識の行動によってもたらされることが圧倒的に多い、と筆者は考えている。

 筆者は10年以上、国家試験の論述模試添削を行っている。その経験からも、人が他人に説明する状況では本当に「前提の省略」が多いと実感している。前回も説明したが、筆者が添削したものをサンプルに数えたところ、筆者の指摘のうち、50%が「説明不足」「理由がない」「なぜなのか疑問がわく」であった。

 このように、人は他人に説明を行なう際、多くのケースで「前提の省略」をしてしまう。これは、「根深い問題」と筆者は考えている。特に、ある仕事に長く携わっており、その仕事の常識にどっぷり浸かった状況で異なる仕事に就くと、自分と新しい仕事の関係者との前提知識の蓄積の違いで、説明を行う際にかなり苦しむことになる。

 今回はそんなSE(システムエンジニア)の事例を紹介しよう。これは懇意にしている人材コンサルタントに聞いた話なのだが、「自分の常識が他人への説明不足を産む」の興味深い話である。ぜひ、読み進めていただきたい。