先日、某大学でコンプライアンス(法令順守)関係の講義をした時の話である。授業の開始時間になっても、一部の学生がおしゃべりを止めない。担当のA教授が「講義が始まりますので、皆さん静かにしてください」と2度呼びかけたが効果がない。温厚なA教授もさすがに表情が引き締まり、ついに「皆さん静かにしなさい!!」と声を荒げたところ、ようやくおしゃべりがストップした。

 講義の終了後、A教授が「まことに無礼なことで申し訳ありません」としきりにわびてくる。私は「最近はどこの大学もこんな感じですから、あまり気にしないで下さい」と返答したが、次のA教授の言葉に驚いた。

無秩序化する大学

 「パワハラと非難されるのは分かっているのですが、あまりに失礼なもので、つい声を上げてしまいました」

 私が苦笑して、「学生のおしゃべりを叱るくらい、教師として当然ではないですか」と申し上げると、A教授は真顔で、「いえいえ、今の大学では教師が大声を出しただけで、パワハラになってしまうんですよ」と言う。

 A教授のご説明によると、学生に対してちょっと厳しく指導すると、すぐにパワハラ(大学内ではアカデミック・ハラスメント、縮めて「アカハラ」と呼ぶ)扱いされてしまうらしい。半信半疑の私が、「それでは学生への指導ができないでしょう」と質問すると、A教授は、「その通りです。情けない話ですが、教員が戦々恐々となって何も言わなくなったため、大学の中が無秩序化して、まるで動物園みたいになっているのです」と唇を噛みしめた。

 このままでは学生の将来のためにもよくないと考えたA教授は、同じ学部の必修科目担当の教員たちと「特攻隊」を組んで、学生指導に努めているという。言い方は悪いが、1・2年の必修科目の履修時にしつけておけば、その後も軌道からさほど外れないだろうという考えである。「特攻隊」というのは半ば自嘲だろうが、すぐにパワハラと批判される学内では、そのくらいの覚悟がないと学生指導はできないらしい。

 ちなみに、A教授たちのご努力によって、同学部の学生は比較的しっかりしているという。A教授が見学に訪れた他学部の講義では、教室の後方で学生がバドミントンをしているのに、担当教員はそのまま授業を続けていたそうだ。