2012年9月末、総務省から全国の都道府県と市町村に向けて1つの文書が配布された。A4判で約350ページものボリュームがあるその文書のタイトルは、「地方公共団体における番号制度の導入ガイドライン(中間とりまとめ)」。2月に国会に提出されながら、消費増税をめぐる与党民主党内の対立や「近いうちの衆院解散」をめぐる与野党間の駆け引きのあおりを受け、いまだ成立のめどが立たない「マイナンバー法案」に関連する文書である。

 実は、“決められない政治”によりマイナンバー法案が宙に浮く中、自治体でのマイナンバー導入に関する2つの重要な文書が行政側から相次いで出てきた。8月ころまでに関連府省の研究会などで検討を重ねてきた事項を取りまとめたものである。冒頭の自治体向けの番号制度導入ガイドライン案に続いては、「特定個人情報保護評価指針素案 (中間整理)[地方公共団体・地方独立行政法人向け]」が11月6日に公表された。

 マイナンバー法案が、現在の臨時国会で成立するのか、はたまた解散・総選挙を経て新しい政権に取り扱いが委ねられるのか、現状では全く見通せない。ただ、2つのガイドライン案は、どちらも自治体でのマイナンバー制度の導入・運用にかかわる重要事項の方向性を記述したものであり、法案が成立すれば次のアクションの起点になる。2つの文書のポイントを見ておこう。

システム改修費の予算計上が間に合わなくなる

 自治体向けの導入ガイドライン(中間とりまとめ)は、マイナンバー法案の成立が見通せない状況にしびれを切らした総務省が“フライング”を承知で配布したものと言える。

 同ガイドラインを作成した目的としては、「各市町村の担当者が住基システムの開発等を担うベンダー等に対し本ガイドラインを示し、関係するシステム改修に必要な費用の積算の一助となること」と明記。「システム改修に伴う財源措置については、検討中であるが、各市町村においては本ガイドラインに基づき必要な見積もりをとるなど、平成25年度予算計上に向けて準備を進めていただきたい」と訴えている。

 政府が想定する制度導入のスケジュールは、2014年10月に各自治体が住民へのマイナンバーの割り当て(付番)・通知を開始し、2015年1月から年金・税務書類・要援護者リストなどからマイナンバーの記載を始めるというもの。2016年1月からは国の機関間で、同年7月からは自治体を含めて、マイナンバーによる個人情報のネットワーク連携を始める計画である。

 このスケジュールから逆算すると、各自治体が運用する既存の住民基本台帳システムや税務などの業務システムの改修あるいは新規開発は、2013年度中には設計・開発にかからないと間に合わなくなる可能性が高い。各自治体が設計・開発に着手するには費用の予算計上が不可欠だが、法案の成立を待っていたのでは2013年度の予算編成に組み込めない恐れがある。そこで、急きょ「中間とりまとめ」の段階ながら、各自治体での予算編成作業が本格化する前の9月末にガイドラインの配布に踏み切った格好である。

 ガイドラインの内容は、総務省の2つの研究会/検討会での議論を基にしている。1つは「地方公共団体における番号制度の活用に関する研究会」であり、自治体でのマイナンバー制度の活用可能性や、対応システムの構築に関するポイントを取りまとめたもの。もう1つは「番号制度に係る地方税務システム検討会」であり、自治体における税務システムの改修に関する実務上の課題などをまとめたものだ。

 住民基本台帳システムと地方税務システムについては、ITベンダーが開発工数を見積もれるように、数段階に分かれる制度移行のフェーズごとに、出生/転入/転出/転居/死亡や給与支払報告書受け付け/賦課決定/他団体への連絡など、各種の業務フローをシステム要件などともに記述してある。

 また、各自治体の既存システムを、政府が運用する情報連携用の「情報提供ネットワークシステム」と連動させるために新規に構築する「中間サーバー」についても、仕様や要件をできるだけ詳しく記述している。例えば、中間サーバーにはマイナンバーを保有しないで、マイナンバーに対応付けられた「符号」を各自治体が使用している宛名番号と対応付けて管理すること、クラウド技術などを利用して中間サーバーを複数団体で共同利用することで経費を節減できること、運用時間としては夜間のみの停止を想定することなどである。