NECがソフトウエア開発の生産性を大幅に向上させているそうだ。2009年度に稼働したクラウド型開発環境を利用する社内グループ社員の増加が寄与しているという。利用者は2012年度上期に1万人を超えた。

 さらに15年度末には、すべての開発技術者3万人に広げる目論見だ。具体的には、国内に加えて、インドや中国、北米、中南米、欧州、APAC(アジア太平洋地域)へと利用地域を広げる。その結果、今後3年間で約200億円のコスト削減も見込んでいる。

計画を大幅に下回ったITサービス事業

 だが、NECはITサービス事業の将来について、多くを語りたがらないように思える。2010年10月、当時のITサービス事業責任者がITサービス事業の売り上げを09年度の8663億円(営業利益532億円)から12年度に1兆1000億円(営業利益率8%)に引き上げる計画をぶち上げた。ITサービス事業の中核であるシステムインテグレーション(SI)は横ばいの見通しだが、クラウドサービスと海外事業でそれぞれ1000億円ずつ増やすことにより達成する作戦だった。

 現状はどうか。10年度の売り上げは8042億円へ落ち込み、その後、徐々に回復しているものの、12年度見込みは8550億円、営業利益570億円である。一体、ITサービス事業を牽引するのはクラウドなのか、それともSIを含めたソフトウエア開発なのか。NECの山元正人執行役員常務は、「定型化された業務はクラウドサービスの利用につながるが、ソフトウエア開発が急に減るわけではない。アジアでの需要が増えているし、ファームウエアの仕事も増えているので、開発者は増える」と主張する。

 とは言っても、ソフトウエア開発、とりわけ国内のSI市場は縮小傾向にある。NECのITサービス事業は最盛期に比べて1000億円近く減収している。営業利益率も10%を超えていた時代があったが、今では数%に下がっている。

 一般論だが、ソフトウエア開発の料金単価は下がっている。ユーザー企業からの値引き要請もある。失敗プロジェクトも減らない。多くのIT企業は失敗プロジェクトの撲滅運動を含めた改善策に取り組んでいるが、新しい用途のアプリケーションやソフトウエアは設計開発がより難しくなる傾向にある。サービス化の波も止められない。

開発環境がクラウドなら、本番環境もクラウドになる期待

 打開のカギは、作り込みを減らすことになる。さらに、NECグループで使っているクラウド型開発環境を、顧客にも提供することが有効だろう。ユーザー企業に開発環境をクラウドサービスとして提供すれば、本番環境でもそのままクラウドサービスを利用するニーズが高まると予想されるからだ。

 NECはどう対応するのか。残念ながら、答えはまだ聞かせてもらっていない。

 NECによれば、クラウド型開発環境を利用すれば、製造・テスト工程のコストを10%から20%削減できる。開発環境の構築作業も10分の1から100分の1に削減できる。これらにより生産性が飛躍的に向上するというわけだ。そうなれば、開発技術者を増やさなくても、作業をこなせるのではないか。さらに自動化が一段と進めば、ITサービスの工業化へと進展するだろう。競合の富士通は、そうしたソリューション/SIの技術者を成長分野に振り向けていくとしている。

 NECはSI市場、クラウドサービス市場の将来をどう予測し、どんな作戦を展開するのか。発表を楽しみにしている。