ミャンマー人のIT人材を雇用する日系IT企業が増え始めた。こう書くと、単に「世界的に巻き起こっているミャンマーブームに乗じた一過性の動きではないか」と思われる方がいるかもしれない。

 だが決してそうではない。

 低廉な労働コストに着目したミャンマーにおけるオフショア開発での活用だけでなく、日本に常駐させ、高い語学能力を生かしたブリッジSEやシステム運用担当として働いてもらう、または海外企業との折衝が必要な業務への従事など、幅広いシーンでミャンマーIT人材を起用する事例が出始めているのだ。しかも将来は、海外拠点のマネジメント層に育成しようという、中長期的な視点でミャンマーIT人材を雇用する日系IT企業がほとんどだ。

 注目すべきは、これらの動きがITベンチャーから富士通や日立製作所、NTTデータといった大手IT企業グループまで、幅広い規模の企業で起こり始めている事象であることだ。グローバル化やチャイナリスクへの対応が必須となるなかで、日系IT企業によるミャンマーIT人材の活用は大きなトレンドとなる可能性がある。

 多くの日系企業が「惚れ込む」と言っても過言でないほど、ミャンマーIT人材は魅力的らしい。

海外拠点での業務、マネジメントを期待する富士通グループ

 富士通グループでは、富士通エフ・アイ・ピーが先陣を切る。同社は2012年9月に、ミャンマーのヤンゴンで大卒IT人材の新卒採用を初めて実施した。就職試験では、100人超も集まった応募者から2人に内定を出した。半年間の事前研修を経て、2013年4月から正式入社とする予定だ。

 狭き門をくぐりぬけたこの2人は、いずれもIT系の大学を卒業予定で、数学的素養や論理的思考などの適性試験で高得点を獲得、英語も堪能に扱う女性エンジニアだという。しかも一人は日本語検定1級(日本の大学受験可能なレベル)、もう一人も同2級(日本の高校1年生レベル)を取得済みで、日本語でのコミュニケーションも問題ない。

 入社後、彼女らは日本で勤務する。まずは富士通FIPの主力事業であるシステム運用やアウトソーシング事業に従事するIT人材として鍛える計画。その後、シンガポールやインド、タイなど富士通グループの拠点に配置し、グローバルIT人材として働いてもらう方針だ。

 日本と海外スタッフとの調整役、顧客との英語での商談、外国人IT担当者との実務的なやり取りなどを担当してもらう。「将来は、海外拠点のマネジメント層として活躍してもらえるように育成していく」と、富士通FIPの杉山浩二グローバルビジネス推進部長は話す。

 富士通FIPの本社では、既に4人のミャンマー人材を派遣社員として雇用している。すべての人員が英語と日本語が堪能であるため、日本人と海外拠点の外国人技術者を橋渡しするブリッジSEや、英語対応が求められる外資系企業を担当するなどの業務に従事。バイリンガルなグローバル人材としてミャンマー人IT人材を評価し、派遣だけでなく正社員としての採用活動も始めたのだ。「とにかくよく勉強して、よく働く。ミャンマー人社員は、すべての配属現場で非常に評判が良い」(杉山部長)からだ。

 富士通グループは海外に多数の拠点があり、海外拠点での仕事が増えている。富士通FIPとしても、アジア地域に海外拠点を作る計画なので、日本語と英語ができるミャンマーIT人材は貴重だという。日本人社員の英語教育を強化してグローバルIT人材の育成に努めているが、元々英語が堪能で日本語習得能力も高いミャンマーIT人材を活用した方がグローバル人材を増やすうえで即効性があるようだ。