「日本人とは」と一般論を述べるのは避けようと思いつつ書いてしまうが、我々は熱しやすく冷めやすい。何かに関して盛り上がる時の集中ぶりはすごいが、いったん冷めてしまうと一切捨てて省みない。執念深く何かを続ける人もおられるが少数派である。
情報システムの世界に限っても、盛り上がり一気に冷めた例はたくさんある。一例として今回は「EA」を取り上げる。EAとはエンタープライズアーキテクチャの略で、10年ほど前に日本で大きな話題になった。日経コンピュータは2003年9月8日号で40ページもの大特集『EA大全 企業情報システムの救世主』を掲載した。
いくらなんでも「救世主」とは大げさだと思うものの、筆者は2002年に『プロジェクトマネジメントが日本を救う』という特集を作ってしまったので、同じ穴のむじなである。日経コンピュータの報道通りなら日本は二度も救われているはずだが、どうもそうではない。
当時はEAに関する書籍もあれこれ出版されたように記憶するが、今日の日本でEAはほとんど話題に上らない。正確に書くと「話題に上らない」のではなく、筆者を含むメディアが報道しないだけかもしれない。「執念深く何かを続ける」人たちはしっかり存在する。
1987年にEAの考え方を発表したジョン・ザックマン氏は健在で、世界各地を飛び回りEAに関する講演やコンサルテーションを手がけている。日本ではDAMA(データマネジメントアソシエーションインターナショナル)日本支部の松本聰会長がEAの重要性を長年説いている。以下、松本氏と筆者のやり取りを紹介する。
世の中には変わるものと変わらないものがある
谷島 EAを今どう見ていますか。
松本 じっくり継続している企業はいます。パナソニックさんの取り組みは素晴らしい(関連記事:前例なき“3社統合”を短期間で乗り切れた訳 ~ パナソニック「経営とITを結ぶアーキテクチャーを整備」)。ただ、一時のEAブームは日本ではどこかに消えたようです。ザックマンさんもしばらく来日されていませんし。しかし、EAが消えたのは世界で日本だけです。
すべての国の状況を確認したわけではないですが、僕が知る限り、アジアだけみても韓国、中国、マレーシア、ブルネイ、シンガポール、インドといった各国でEAに関する1日から3日間のセミナーや教育プログラムがしばしば実施されています。
僕が日本支部の会長をしているDAMAはデータマネジメントのプロフェッショナルが集まっている非営利の国際団体です。データマネジメントとEAは密接な関係があり、DAMAが米国で開くカンファレンスに出ると様々な企業がEAの実践について話をしています。残念ながら、こうした国際会合で日本は見る影もありません。
谷島 私が言うべきではないですが、報道に問題がありますか。
松本 ある雑誌の編集者と話していたら「EAなんて古い」と切り捨てていました。ただ、日本のITの人たちは変わるものばかりを常に追いかけていますから、雑誌もそれに合わせているところもあるでしょう。
しかし、世の中には変わるものと変わらないものがあると声を大にして言いたいです。ザックマン・フレームワークのように変わらないものに目を向けると、かえって自分が何をやっているのかが見えてきます。
企業の情報システムが健全に機能し、企業の利益の源泉になるためには何が必要か。それを考える基礎が、企業の活動をデータと機能に整理して一望できるようにするザックマン・フレームワークだと思います。