9月22日の「秋分の日」が土曜日と重なったため、筆者の勤める会社は前日の21日が休日になった。なんだか得をした気分になり、久しぶりに箱根に出かけた。観光客が少なく、道路も空いていて快適だった。好天で、芦ノ湖の観光船からは山々がきれいに見えた。前の席に座っていた中国人と思われる観光客がiPadを取り出して熱心にビデオ撮影を始めたのには「へえー」と思った。体格のいい彼らはiPadを重いとは感じないのかも知れない。

 さて、本論に入ろう。今や個人の世帯で有線の通信回線を持たないことは珍しくなくなった。筆者の次男、三男もそれぞれの自宅ではモバイルルーターでインターネットを使っている。モバイルルーターを持ち歩いて使うことなどなく、“固定通信”に利用しているのだ。電話はもとよりスマートフォンを使っており、固定電話は引いていない。固定通信であっても光ファイバーを使わない「ファイバーレス化」は高速モバイル通信規格のLTEが追い風となり、企業でもどんどん広がるだろう。

 2012年はLTE普及元年だ。2010年12月にNTTドコモがサービスを開始したLTEサービス「Xi」(クロッシィ)は、今年度内には人口カバー率が70%に拡大する予定だという。今年3月にはイー・アクセスがサービスを開始し、9月にはKDDIとソフトバンクモバイルがiPhone 5の発売と同時にLTEサービスを始めた。KDDIは今年度末、人口カバー率96%を実現する計画だ。サービス開始からわずか半年である。

 モバイル各社がLTEに注力するにはわけがある。スマートフォンによるトラフィック激増に対処するためだ。同じ周波数帯域で比較すると、LTEは3Gの約3倍のデータを送受できる。

 今回はLTEをスマートフォンではなく、企業ネットワークでルーターにLTEカードを装着し、光ファイバーの代わりに用いる「ファイバーレス化」について述べたい。

シンクライアントもIP電話も快適なLTE

 企業ネットワークで光ファイバーの代わりにワイヤレスブロードバンドを使うファイバーレス化は、2008年にイー・アクセス(当時はイー・モバイル)の3Gを24時間365日つなぎっぱなしで使う、という形で設計・構築したことがある。ただしバックアップ回線としての利用であり、メイン回線は広域イーサネットやADSLだった。

 3Gは通常のデータ通信では問題ないが、網内の遅延が数百ミリ秒と大きいため、遅延に敏感なシンクライアントやIP電話には不向きだ。例えば、シンクライアントでPowerPointのスライドを表示しても遅くて客先での利用には適さない。あるプロジェクトで評価したところ、シンクラでPowerPointを快適に使うには遅延が50ミリ秒以内であることが望ましいという結果だった。IP電話の遅延は、総務省が固定電話クラスの品質として100ミリ秒以内であることを規定している。

 LTEは下りが最大75M~100Mビット/秒、上りが最大20Mビット/秒程度と高速であるだけでなく、遅延が10~20ミリ秒程度と小さいのが特徴だ。シンクラや双方向性のある音声・映像通信を快適に使える。

 データセンターや大規模オフィスでは、超高速で安定的な光ファイバーが不可欠だ。しかし、トラフィックの少ない中小規模のオフィスや店舗はどんどんファイバーレス化すべきである。回線工事が不要になって迅速・安価にネットワークを導入できるだけでなく、多くの場合、光ファイバーを使った回線よりも運用コストを安くできる。