社会保障・税にかかわる共通番号制度、通称マイナンバー制度が、岐路に差し掛かっている。政府は2015年1月の運用開始を目指しているものの、そのロードマップ(工程表)の遂行が揺らいでいる。

 マイナンバー法案は2月半ばに国会に提出された。だが、消費税増税をめぐる与党内の対立や与野党間の政局にらみの駆け引きなどもあって、延長国会でも成立せず、継続審議となった。仮に今秋に開かれるはずの臨時国会でも成立しないとなると、自治体などでのシステム改修のための2013年度(平成25年度)予算要求に間に合わない。結果として、運用開始が1年先延ばしになる可能性が出てくる。

 もちろん、マイナンバー制度は、国民生活や企業活動に多大な影響を与える税と社会保障の抜本改革の基盤であるだけに、拙速な議論や対応は禁物である。

省庁や自治体のシステム更新のタイミングにも影響

 とはいえ、想定スケジュールが流動的になると、省庁や自治体のシステム更新のタイミングにも影響が及びかねない。特に、システム経費の効率化を目指してクラウド環境への移行を進めている市町村の中には、マイナンバーへの対応とクラウド移行を同期させようと計画しているところも多い。こうした団体では、制度運用のスタート時期がずれれば、使用ライセンスや保守契約の期限が切れた従来システムを使い続けなければならなくなる恐れもある。運用開始が遅れれば、行政事務の効率化や経費削減の効果もおあずけになってしまう。

 このような省庁や自治体など行政機関が被る経済的な損失は、最終的には予算配分や交付税による財政支援措置を通して政府が穴埋めに動くだろう。政府は2015年10月の消費税率10%への引き上げ後に、低所得者対策として「給付付き税額控除」の導入を計画しているからである。政府としては、給付の前提となる個人所得の把握精度を高めるために、マイナンバーの導入を是が非でも推し進めなければならない。そのための財政支援措置を躊躇(ちゅうちょ)するわけにはいかない。

 一方、自民党などの野党が政府案の代案として主張する「軽減税率」を導入することになった場合も、マイナンバー制度の運用が不可欠になるとの見方が出てきた。個々の事業主の売り上げ構成を正確に把握するには、マイナンバー制度が規定する「法人番号」による管理が欠かせないと考えられるからである。つまり仮に政権交代があったとしても、政府は省庁や自治体のマイナンバー対応のためのシステム改修に対して、資金面で万全の支援をせざるを得なくなる可能性が高い。

 だが、マイナンバー制度で影響を受けるのは、行政機関のシステムにとどまらない。おそらく、ほぼすべての民間企業の情報システムにも影響が及ぶ。制度の導入スケジュールや詳細設計がどうなるのか、民間企業のシステム担当者も無関心では済まされない。