この連載では、「ダメに見せない説明術」を扱っている。前回までは、二つめのダメ説明である「論点不明、主旨不明、結論なし」をテーマに取り上げた。10のダメ説明は以下の通りである。

「10のダメ説明」

  1. 長い、細かい、テンポ悪すぎ
  2. 論点不明、主旨不明、結論なし
  3. 抽象的、具体的でない、表面的
  4. 理由がない、何故?が満載、説明が不足
  5. 独りよがり、自分視点、自己中心
  6. 遅い、ぎりぎり、時間なし
  7. 理解が浅い、内容が陳腐、質問されると沈黙
  8. 先を読まない、場当たり的、その場しのぎ
  9. 思想がない、考えがない、自分がない
  10. 反論する、否定する、対立する

 今回から、三つめのダメ説明である「抽象的、具体的でない、表面的」をテーマにする。

対象を「分解」「詳細化」できなければ説明は失敗する

 以前の連載でも紹介したが、「抽象的」という言葉には大きく二つの意味がある。大辞泉には、(1)いくつかの事物に共通なものを抜き出して、それを一般化して考えるさま(例:本質を抽象的にとらえる)、(2)頭の中だけで考えていて、具体性に欠けるさま(例:抽象的で、わかりにくい文章)とある。

 筆者がダメな説明として使う「抽象的」は、(2)の意味であり、「具体性がない」「表面的」とほぼ同じ意味である。大辞泉によると、「具体性がない」は「曖昧で内容が知覚できないさま、「表面的」は「物事の本質ではなく部分に焦点をあてるさま」という意味である。

 筆者が研究、体系化しているヒューマンマネジメント論において、説明が「抽象的、具体的でない、表面的」とは、「説明の対象とすることを、必要な要素を分解、詳細化して相手に理解できるように説明できない」状況を指す。

 「説明の対象とすること」とは、仕事など目的をもつ活動全般であり、例えば、「企画」「その効果」「検討すべき課題」「作業手順」などが該当する。また、「必要な要素を分解できない、詳細化できない」とは、説明の対象となる「企画」「その効果」などの詳細要素であるアウトプット物、検討手順(手段)、スケジュール、コスト、役割分担などを分解し、それぞれを詳細化できないということだ。

 説明すべきことを「分解」「詳細化」して、相手に説明できないと、相手は「どのようなことなのか」が分からない。結果として相手は、「この説明者は、本当に分かっているのか分からない」という疑念を持つことになる。

 説明の本質は、説明者と被説明者の情報差を解消し、被説明者に理解させた上で行動を促すということである。だから、被説明者が説明者に「分かっていない」という疑念を持てば、被説明者の理解を深めようという意欲が大幅に減退し、説明が失敗することになる。だから、「抽象的、具体的でない、表面的」な説明はダメなのだ。