「つくる」と言っても対象はハードウエアではなくソフトウエアである。ソフトウエアの定義を考え出すと厄介なことになるが、コンピュータプログラム全般とそれに基づくインターネット経由のサービス、さらにサービスの中で生じるコンテンツと思っていただきたい。

 コンテンツには文章を含める。こうすると筆者はプログラムやサービスをつくってはいないもののソフトウエアを「つくる人」に入る。

 「つくる人」の対語は何か。「つくらない人」では否定形にしただけなので「しきる人」とする。しきる人はつくる人を集めてきて、指示をしたり段取りしたり揉め事を収めたりする。ただし自分でソフトウエアは作らない。

 「つくる」と「しきる」は別の仕事だが、綺麗に分けられるものではない。つくる人がしきる場合もある。しきる人がつくることもある。

ある「しきる人」の話

 筆者の勤務先に「閣下」と呼ばれる「しきる人」がいる。実はこう呼んでいるのは筆者だけかもしれないが、別の同僚がその人を「彼はダースベイダーだから」とかつて評していた。当人に向かって「あなたは日経BPのダースベイダーですね」とは言えないので閣下と言い換えている。

 ダースベイダーは悪役だが閣下は悪人ではない。辣腕とか仕事に厳しいとか目標を達成するためにはあらゆることをするといった意味であろう。つまりダースベイダーとか閣下というのは褒め言葉と思っている。

 筆者は閣下と何度か仕事をしたことがあるが直属の部下として働いたことはない。ひょっとして閣下の指揮下で仕事をすると、ダークサイドに引きずり込まれるのかもしれないが考えすぎだろう。

 同僚を公開の場で褒めるのは少々はしたないが、閣下はいわゆる出世頭である。振り出しは記者という「つくる人」であったが主要雑誌の編集長という「しきる人」に転じてから次々に要職を歴任し、今は弊社の主力事業部門の長でなおかつ執行役員になっている。ちなみにこのITproサイトの責任者を務めたこともある。

 閣下はハードワーカーである。立ち寄りが無ければ朝8時には出社し仕事を始めている。筆者も朝8時くらいに出社していた時期があったが同じ階にいた閣下は常に先に来ていた。他にだれもいないので自然と話をするようになり、ダースベイダーと呼ばれていても恐ろしい人ではないと認識した。もっとも雑談をしているうちに面倒な仕事を頼まれてしまうことが何度かあった。

 その後事情があって筆者は早朝出社を止めたが、今でも閣下に用事がある時は朝8時過ぎに電話をかけると本人が出てくる。閣下の予定はグループウエア上に公開されており9時30分から夜まで会議や面会訪問などでびっしりである。「メールの返事は朝と夜しか書けない」と言っていた。