徳島県那賀郡那賀町木頭地区――徳島県と高知県の県境近くにある山間の村で今夏、ソーシャルメディアを活用した「サテライト教室」プロジェクトが発足した。過疎の進む山村の問題解決に結びつくような講義を山村で受講したり、逆に山村の暮らしで培った知識を都市部に向けて発信したりする、双方向のやり取りが特徴だ。やり取りの基盤として、FacebookなどのSNSと、Google+ハングアウトなどのビデオチャットシステムを使う。

 このプロジェクトは、文部科学省の「社会教育による地域の教育力強化プロジェクト」における実証的共同研究の一環として行うもの。「サテライト教室」プロジェクトを主導する一般社団法人イコールラボはこれまでも、学生を対象にしたインターンシップを実施したり、冊子やWebサイトで現地の情報を発信したりしてきた。

 今回のプロジェクトでは、こうした取り組みに加えて、ソーシャルメディアを使うことによって、より密な双方向の知識のやり取りを目指す。山村の住民が専門家から知識を受け取るだけでなく、山村の住民が経験を通じて育んできた「循環型社会」に関する知識を専門家に伝える相互作用を通じて、お互いが変わっていくことが目標だという。現在、京都大学大学院の地球環境学舎の院生たちと、過疎地の問題点の洗い出しなどを行っており、その結果に基づいて専門家に参加を打診していく予定だ。

核になる人を探すことが持続可能にするカギ

 ただし、プロジェクトは動き始めたばかりで、解決すべき課題は少なくない。もっともこれは、実証的共同研究というプロジェクトの性質上、当然とも言える。

 まず、ソーシャルメディアが普及したとは言っても、機能を使い込んでいる利用者はまだ限られている。例えば、イコールラボがこの夏にインターンシップで受け入れた学生たちは、一人もビデオチャットシステムを使ったことがなかったという。

 初心者向けにマニュアルを整備しようとしても、ソーシャルメディアでは、システムの仕様が突然変わってしまうこともある。マニュアル作成後、システムの画面構成がちょっと変わってしまっただけでも、初心者には使えなくなってしまう可能性がある。

 また、ビデオチャットを行うには、ある程度の性能のパソコンが必要になる。そうしたパソコンをどうやって用意するのか、という問題もある。当初は性能的に問題がないパソコンを用意できたとしても、システムのバージョンが上がるにつれて、パソコンの性能が不足してしまう恐れもある。

 こうした問題を解決し、プロジェクトを持続可能にするカギは、地元に根差している企業などで情報発信の核となる人を見つけることだという。イコールラボの玄番隆行氏は「情報を発信したいと考えている人はどこにも必ず存在する。そうした人たちの力を借りられれば、より低いハードルで、プロジェクトを持続できるようになる」と語る。

 イコールラボでは最近、インターンシップで村を訪れた学生に、そうした核となる地元の人たちを紹介するようにしているという。「いずれ、核になる人たちをコーディネートする要員を、NPOなどの組織で雇い入れられるようになれば、より安定した運用が可能になるだろう」(同)としている。

プロボノと循環型社会への関心が追い風に

 一方で、山村の問題解決につながる知識を提供してくれる専門家をどのように見つけるか、という課題がある。ソーシャルメディアの利用で直接来てもらわなくても良いと言っても、リアルタイムのチャットを行うと、どうしても決まった時間、束縛してしまうことになるからだ。

 ただし、ここ数年、震災以来は特に、専門的な知識を持つ人がその知識を利用してボランティア活動を行う「プロボノ」と呼ぶ手法が注目されるようになってきた。加えて、循環型社会に対する関心の高まりは、専門家のプロジェクトへの参加を促すきっかけになり得るだろう。こうした風潮が今回のプロジェクトに対する追い風になることを期待したい。