中国でデータセンター(DC)サービスの提供に乗り出す日系IT企業が増えてきた。大手システム会社や通信会社の多くが、現地企業と合弁会社を設立して新たにDCを建設したり、現地企業と提携し、設備を借りたりしてサービスを始めている。例えば富士通は2012年4月、広東省仏山市に延床面積が1万2200平方メートルの大型データセンターを開設。同社としては中国で初となる自社所有のDCとして、現地に進出している日系企業などへ本格的に売り込み始めた。

 今後も日系IT企業による中国でのDCサービスは増え続ける。KDDIは2012年12月、北京では外資として最大級となる、約2万5000平方メートルのDCを新たに開設する計画。日立製作所も2012年秋のサービス開始を目指し、延床面積が1万平方メートル規模の大型DCを大連で建設中だ。既に中国でDCサービスを提供しているIT企業でも、複数の会社が「既存の設備は順調に埋まりつつあり、新たに設備を借りるか、合弁を通じた新設などを検討する」と明かす。

 これらの背景には、中国に進出する日系企業の増加と、既に進出している日系企業による現地拠点の拡大がある。中国で事業を始める日系企業が増え続け、中国での事業規模が大きくなり重要度も増すなかで、中国でも日本と同様に業務システムを安全に運用し、データを強固に守るためのDCが求められているのだ。

 だが、ネットワーク環境やセキュリティ対策の考え方、国土の広さなどが日本と大きく異なる中国では、たとえ日系IT企業が関与するDCサービスであっても、日本の常識では選べない。実際に、「中国でのDC利用は初めてなので何を選択のポイントとすべきかが分かりにくい。そもそも、中国のDCに関する情報が決定的に少なく、謎が多い」との不安を漏らすユーザー企業は少なくない。

 とはいえ不安を抱えて悩んでばかりもいられない。欧米の景気が低迷するなか、中国を筆頭とする新興国市場を成長の柱に据える日本企業は数多い。中国事業を支えるべき情報システムを設置するDC選びで失敗し、現地拠点でシステムの使い勝手が悪くなるような事態が発生すれば、事業に与える影響は小さくない。事業の要となる情報システムを設置する中国でのDC選びは、中国ビジネスの成否をも左右する重要事項と言えよう。

 選択の参考になるのは、中国でのDC選択を実際に経験したユーザー企業の事例だ。先行ユーザーへの取材では、中国における主要拠点の場所や事業内容、IT投資の方針などにより、各社がサービス選定で最も重視したポイントは異なっていた。

もしかして検閲されている?

 中国におけるDC選びで、ネットワーク環境を最重要視したのが、Webによる調査サービスを展開するマクロミルである。

 同社は、TISが天津で提供するDCを、2011年秋から利用し始めた。TISのDCは、三つの通信会社のネットワークを自動的に切り替えて使えるようにしてあり、ネットの信頼性が高いと判断した。ネット環境にこだわったのは、中国進出当初の苦い失敗があるからだ。