東日本大震災においてBCP(事業継続計画)が必ずしも役に立たなかったとの反省から、多くの企業で見直し作業を進めている。こうした機会にマニュアルを再検討するのは大変に良いことだが、筆者の印象では、その見直しの方向が少し偏っている感じがする。そこで、老婆心ながら、4点ほどアドバイスを申し上げることにしよう。

BCPを緻密化しても意味がない

 アドバイスの第1は、「BCPをあまり緻密化しないこと」である。日本人は生真面目なので、マニュアル類の記述をできるだけ詳細にしたがる傾向が認められるが、そもそも日本におけるBCPは、緻密化すればするほど「机上の空論」に陥りがちだ。

 欧米でのBCPはテロ事件などの人為的なリスクを対象としているので、被害範囲は基本的に自社内に限定され、事業再開のために外部の資源を動員することが可能である。ところが日本では、その国土の特質を踏まえ、地震や風水害などの自然災害を主たる対象としているのだ。

 BCPの作成に当たって、この違いは極めて大きい。自然災害の場合には、被害範囲が地域レベルとなってしまうため、その影響を予測することが難しく、また、事業継続のために外部の資源をどれだけ利用できるのか見込みが立たないからだ。

 例えば、建屋の修理のために建設業者を手配しようにも、当該地域内の業者のところには依頼が殺到しているはずだ。従業員の家族や自宅に被害が発生すれば、企業側としても放置しておくわけにはいかない。道路の寸断や燃料の不足で流通がストップし、あるいは電力・水道・通信などのインフラの回復に時間がかかる可能性もある。販売先の企業や消費者が被災して需要が落ち込めば、製造を早期に再開しても意味がない。

 つまり、自然災害時のBCPには、不確定の事象(=その時にならないと分からない話)があまりに多すぎる。さらに、自然災害の影響は多岐にわたるために、「風が吹けば桶屋が儲かる」式にまったく予想外のトラブルも多発するものだ。

 従って、いかに緻密なBCPマニュアルを整備しても、(頭の体操という意義を認めるのはやぶさかではないが)しょせんは「机上の空論」にすぎない。むしろ、下手に細かく対策内容をマニュアルに規定していると、自縄自縛になってしまう恐れさえある。

 あらかじめ事業継続のボトルネックとなる要素を洗い出し、バックアップ機能の確保や発注先の分散、在庫の積み増しなどの事前対策を進めておくのは当然のことだ。しかしそれ以上については、いざ緊急時になってから、実情を踏まえて判断すればよい。BCPマニュアルには、基本的な対処方針とそれを具体化する段階で検討すべき事項を書き出しておく程度で十分であろう。