スティーブ・ジョブズが2011年10月5日に死去してから、もうすぐ1年が経つ。ジョブズ亡き後も、iPhoneやiPadなどで世界を変えたジョブズの偉大さをたたえる声は続いている。その偉業の大きさからか、「ジョブズは天才だからできた」「ジョブズは特別」と神のように特別扱いされることも少なくない。しかし、アップルを20年以上にわたって取材し続けている林信行氏は、「ジョブズはすばらしいイノベーションを起こしたけれども、すべてに成功してきたわけではなく、失敗もしてきた。むしろ、その失敗を糧に成功に変える戦略がすばらしい」と分析する。

 その林信行氏が、金沢市に開校したばかりのユニークな教育機関「beta」で行った講義(写真1)の一部を紹介しよう。betaは、デザイン思考を実践しながらアイデア、デザイン、テクノロジーをキーワードにさまざまな講義を展開している。

ジョブズの判断がいつも正しいわけではない

写真1 講演する林信行氏 撮影:宮田人司氏
写真1 講演する林信行氏
撮影:宮田人司氏
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 林氏が挙げたジョブズの「失敗」のひとつは、アップルを追放されて立ち上げたNeXTコンピュータの製品。「オブジェクト指向の斬新なOSを載せたハードウエアだったが、ほとんど売れなかった」(林氏)。

 さらに、アップル復帰後の2000年に発売した「Power Mac G4 Cube」も紹介。立方体の美しいコンピュータで、「発表の時は、ジョブズが革命的な製品だと強調して力を入れたものの、電源のトラブルなどもあり、あまり売れなかった」(林氏)という。ほかにも、iPodケータイとも言えるモトローラ製の「ROKR」なども紹介した。

 失敗というほどではなくても、ジョブズの判断がいつも正しいわけではないという例で紹介したのが、当初のiPodの戦略。林氏は、「ジョブズはMac対応版しか出さないという方針だった。iPodの発表会見で複数のメディアから『Windows対応版を提供しないか』と何度も聞かれた際にジョブズは、『お前たちは本当にそんなものがほしいのか?』と本気で反論していた」と言う。