米Googleは2012年7月27日、通信速度が最大1Gビット/秒のFTTHインターネット接続サービス「Google Fiber」を、米国カンザスシティで提供すると発表した(関連記事)。Googleが手がけるテレビサービスや、月額利用料無料のプラン(工事費は別途必要、速度制限あり)など注目点の多いサービスだが、記者が最も注目したのが「Google Fiberラリー」と呼ばれる、ゲーミフィケーションを盛り込んだユーザー獲得の手法だ。

 インフラ事業としてのFTTHサービスは、利用者数の多い地域ほど設備の利用効率が高まり、高い収益性を期待できる。そこでGoogle Fiberでは、サービス地域を「Fiberhood」(ファイバーご近所)と呼ぶ複数の小区域に分割し、地域対抗で利用登録数を競わせることで、より多くのユーザーを獲得しようとしている。

ユーザーが主体となって利用登録を集める

 具体的には、Googleが指定した割合以上の世帯がGoogle Fiberの利用登録をした地域(Fiberhood)に、サービスを提供するルールを設定した。利用登録を集める主役はユーザー自身だ。1Gビット/秒の高速FTTHサービスに魅力を感じるユーザーが、サービス提供条件である「Fiberhood内世帯における指定割合以上の利用登録」を目指して、近所の友人・知人に声をかける。

 これに加えて、利用登録世帯の多い地域から順にサービスを提供するルールもあるため、十分な利用登録が集まりサービス提供が確定した後も、Google Fiberに地域として一番乗りしたいユーザーはさらに多くの利用登録を集めようと躍起になる。

写真●米Googleが公開している「Fiberhood」のランキングページ
写真●米Googleが公開している「Fiberhood」のランキングページ
エリア内のサービス提供が確定したFiberhoodを地図で緑に塗ったり、ランキングを表示したりすることでユーザーのさらなる登録を促している。写真は2012年8月16日時点。
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 Google FiberのWebサイトでは、Fiberhoodごとの利用登録状況がランキング表示され、どの地域で利用登録がどれくらい集まっているか、あとどの程度利用登録が集まればサービス提供が確定するかがひと目で分かり、競争心を煽っている(写真)。

 事前登録の締め切りまでまだ期間が残っているが、サービス提供が確定したFiberhoodが多く登場しており、現在はどこのFiberhoodがより多くの利用登録を集めてGoogle Fiberに一番乗りするかを競う段階に入っている。ここまでの反響はGoogleにとっても予想外だったようで、利用登録開始からわずか1週間後の2012年8月4日には、新しいFiberhoodを3地区追加する方針を発表している。

売り手よし・買い手よし・世間よし

 Google Fiberのこの手法は「利用希望世帯が少なく、事業性が低い地域ではサービス提供しない」「利用希望世帯が多い採算性の高い地域から優先してサービス提供する」という、サービス事業者として当然の方針を、「みんなが協力して地域を良くしよう」という前向きなスローガンで包んで見せているとも言える。

 それでも、ユーザー集めのイベントが盛り上がれば盛り上がるほどGoogleは加入者を獲得でき、加入者は利便性の高いサービスを利用でき、地域の公共施設には無料の高速インフラが整うという、売り手よし・買い手よし・世間よしの「三方よし」を実現している。

 日本国内では、NTT東西地域会社のインフラを借りてFTTHサービスを提供する接続事業者向けに、一芯の光ファイバーでカバーするエリアである「光配線区画」を広げる取り組みが進んでいる。同一区画内に含まれる世帯を増やし、コスト回収しやすくすることで接続事業者がサービス提供しやすい環境を整備するのが目的だ。これまで関心のなかったユーザーをFTTHサービスに振り向かせるには、こうしたユーザーから見えにくい取り組みだけでなく、ユーザー自ら「FTTHサービスを導入したい」と思えるような提案も必要ではないだろうか。