この連載では、「ダメに見せない説明術」を扱っている。前回は「説明は、人に正しく伝える機能と人から評価される試験機能の二つを持つ」こと、「良い説明にする」には「ダメ説明をなくす」べきであることを述べた。

 その上で、筆者が考える「ダメ説明」には10の特徴があり、これを改善することこそが、「良い説明」への早道であることを主張した。10のダメ説明は以下の通りである。

「10のダメ説明」

  1. 長い、細かい、テンポ悪すぎ
  2. 論点不明、主旨不明、結論なし
  3. 抽象的、具体的でない、表面的
  4. 理由がない、何故?が満載、説明が不足
  5. 独りよがり、自分視点、自己中心
  6. 遅い、ぎりぎり、時間なし
  7. 理解が浅い、内容が陳腐、質問されると沈黙
  8. 先を読まない、場当たり的、その場しのぎ
  9. 思想がない、考えがない、自分がない
  10. 反論する、否定する、対立する

 今回から、これら「10のダメ説明」について詳細に述べていく。最初のダメ説明は、「長い、細かい、テンポ悪すぎ」である。

ダメ説明を生み出す「説明におけるコンフリクト」

 これまで何回か紹介しているが、筆者の定義する「説明」とは、「自分と相手の情報差を解消し、相手に理解・納得させ、行動させる」ことである。一般にダメな説明をしてしまう人間は、この「相手に理解・納得させ」のところを軽視する傾向がある。

 説明の最終的なゴールは、「相手に理解してもらう」ことである。これは、自分が一方的に説明をすれば良いのではなく、相手が「理解するための行動」をしなくてはならないことを意味している。

 理解するという行為は、相応な手間=行動コストを必要とする。これを相手に強いることになる以上、相手は可能な限り行動コストを少なく済ませたい(=手間をかけない)と望むことが自然である。

 このように、相手から見た場合、「説明」は、「より簡単」に「短時間で」「疑問なく」理解できることを期待するのが自然な要求である。それが妨げられると「説明への不満足」を感じ、これが「説明におけるコンフリクト(説明者と被説明者間の対立、衝突)」になる。

 これが「一般に説明が上手くいかない」理由であると筆者は考えている。要は、説明を受ける側が、「理解するのが面倒であったり、デメリットを感じる状況」があると、多くの説明は上手くいかないのだ。

 逆に言えば、面倒であったり、デメリットを感じる要素を取り除いてやることが、説明を成功させる方法になる。これが分かるようになると、説明力はかなり向上することを、筆者はこれまでの研究・指導から体感している。

 特に、この連載のテーマは「どの上司にも通用する説明術」である。一般に、上司・上長やお客さまなど立場の高い人が「説明を受ける側」の場合、なおさら「彼・彼女らの行動コスト」に配慮することが必要である。

 説明者よりも被説明者の立場が上になればなるほど、被説明者は、少ない行動コストで説明内容を理解したいと考えるものだ。このことを知らなかったり、被説明者の行動コスト抑制技術がない場合に「説明が失敗する」と筆者は考えている。