筆者は企業の課長という立場で日々システム企画やプロジェクトマネジメントを企画、立案、監督している実務家である。同時に現場の実践的教育研究を、10年以上にわたって行なっている。

 現場での仕事は複雑であり、同じような仕事に見えても、詳細に見てみると「どれひとつとして、以前と全く同じ状況になることはない」と言えるだろう。同じように見える仕事でも、以前と今回では、多くのことが異なっているはずだ。

 多くのことが異なっている大きな理由のひとつが、「仕事の遂行には、人間が介在している」ということがある。コンピュータでプログラムを実行すると、どのコンピュータで実行しても基本的に同じプロセスを正確に繰り返す。

 しかし、人間の場合はそうはいかない。同じ仕事でも、実施する人の知識、経験、意欲、感情などに左右され、同じ結果になるとは限らない。人は計算ミスや判断ミスをすることがあるからである。

 この傾向は、人がより多く介在する仕事において顕著であろう。自分だけで行なえる仕事よりも、100人で協業する仕事の方が確実にミスの要素が多くなる。なぜなら、100人に正しく仕事内容を説明しないと、誤解や理解不足による「不具合」が発生するからだ。

 筆者の経験でもプロジェクト失敗の原因は、人への伝達ミスのケースが圧倒的に多かった。正しい説明をすれば防げたことが、正しい説明ができなかったことで大きな問題発生やプロジェクト失敗につながったのだ。

 では、なぜ、伝達ミスが生じるのか。それは「説明」をあまり重要と考えず、「よい説明」を学ばないまま、場当たり的に「説明」するからだと筆者は考えている。仕事で「説明」する機会は非常に多い。さらに、同じような説明でも状況に応じて難易度が異なる。

 しかし、多くの人は、一回一回の説明の難易度や必要な能力などを考えずに、みな同じような基本的な準備だけで「説明」しようとする。だから、「説明」が上手くいかないのである。