すでに先月のことになるが、野村総合研究所(NRI)の主催で6月21日、「ビッグデータ社会におけるプライバシー」というメディア向け説明会が開催された。非定型の大量データ、いわゆる“ビッグデータ”のビジネス活用では、その明るい面が喧伝されることが多い。だが、大量の個人情報を扱う場合、一歩間違うと顧客からの信用を無くし、企業は取り返しのつかない痛手をこうむることになる。

 特に、個人の識別に利用できない“非個人情報”とこれまで思われていた情報が、ビッグデータ関連技術の発達によって、複数の情報を組み合わせると個人を識別できる“個人情報”となる局面が増えている。

 説明会ではその具体例として、米国のオンライン映画配信・DVDレンタル会社であるNetflixが紹介された。Netflixは2006年、顧客の嗜好に合った映画をお勧めするアルゴリズムのコンテストを開催した(関連記事)。その際、テストデータとして、ユーザーの視聴履歴データを匿名化してコンテスト参加者に提供した。

 だが、テキサス大学のグループがこのときの視聴履歴データを分析して、一部の個人を特定してしまった。この結果を受けて、連邦取引委員会(FTC)がNetflixに「プライバシーに関する懸念」を指摘。第2回のアルゴリズムコンテストは中止に追い込まれた。

 Netflixのコンテスト後、ビッグデータを効率的に分析・処理する技術はさらに進化している。ビッグデータ関連技術は、「個人を識別できないから個人情報ではない」と思っていた情報を、ある日突然、個人情報に変えてしまう危険性を孕(はら)んでいる。

 こうした話は、弊社(日経BP)にとっても他人事ではない。弊社は、雑誌の定期購読者やWebサイトのメール会員、セミナー受講者など大量の個人情報を抱えている。これまで「問題ない」と思っていた個人情報保護のルールが、技術の進歩によって、ある日突然アウトになるかもしれないのだ。

 説明会ではこのほか、個人情報をめぐる環境の変化として「スマートフォンの急速な普及によって、端末IDとひも付けされた個人情報が大量に自動生成されてネット上を流通」「ソーシャルメディアに書き込まれた個人情報がネット上に増大」といった問題が挙げられた。

 このうち、スマートフォンの個人情報をめぐるトラブルとしては、ミログの事例が紹介された。ミログは、Android端末にインストールされたアプリケーションのリストや起動履歴を収集・活用する事業を展開していた。だが、こうした情報の収集が「プライバシーの侵害に当たるのでは」という批判を受けて2012年春、会社解散に追い込まれた(関連記事)。