私物のスマートフォンやPCなどを仕事で使うBYOD(ブリング・ユア・オウン・デバイス)は、デバイス以外にも広がっている。デバイスの「D」ではなく、あらゆる物やサービスを意味する「X」に置き換える方が、実態に即しているように思える。

 例えば、個人で登録・購入したアプリケーションを会社の業務にも使っているならば、BYOA(アプリケーション)となる。個人で登録・契約しているクラウドサービスを使うならBYOC(クラウド)に呼べそうだ。他にどんな「X」があるだろうかと考えるうちに、個人で購入した文具を仕事で使うBYOS(ステーショナリー)、個人で購入した小型扇風機を会社に持ち込むBYOF(ファン)、などを思い付いた。後ろの二つは少々こじつけだが、実際のところ「仕事環境を見回してみるといつの間にか私物だらけになっている」という人は少なくないだろう。

 BYOXは、想像を超えるスピードで広がっているのではないか―。筆者が特に最近気になっているのが、個人的に登録・契約しているクラウドサービスの業務利用だ。例えば、会社のメールを「Gmail」に転送して外出先から確認しているケースや、ファイルサーバーではなくオンラインストレージの「Dropbox」で情報を共有しているケース、「Eight」などクラウド対応の名刺管理アプリで取引先の名刺を管理しているケース、である。

友達の輪で広がるBYOX

 「いつものようにバズワードを作って広めたいだけだろう」「誰かに入れ知恵されたのか」。こんなお叱りを読者から受けそうだが、そうしたつもりで書いているわけではない。あえて「BYOX」という造語を持ち出したのは、「個人端末を業務に利用する」というBYODの考え方だけでは、実態を把握できないように感じているからだ。

 「取引先から教えてもらったんだよ。メールでやり取りするのは面倒だから、オンラインストレージを使おうって」。あるサービス企業の技術者は、Dropboxを使いはじめたきっかけを、こう語る。そして、「会社の規則では禁止されているけど、一度使ったら手放せない。便利だから仕事仲間に広めている。いつのまにか、ディスク容量は10ギガバイトになったよ」(注:Dropboxの初期容量は2ギガバイト。知人・友人に紹介すると1人当たり500メガバイト容量が増える)と続ける。

 個人向けサービスの多くは無料。しかも、すぐに使い始められる。その結果、友人・知人の輪を通じて、BYOX(ここではクラウドサービス)が急速に広まっているように思える。会社のPCや会社支給のスマートフォンから、個人で登録・契約しているクラウドサービスを使っているケースもあるだろう。実は、個人の端末を使うことが前提のBYODよりも「個人のクラウドサービスを使うBYOXが広がっている」と考える方が現実に近いのではないか、と筆者はみている。

 もちろん企業からみれば、何の統制もない環境、セキュリティを担保できていない環境で、個人の物やサービスを業務で使うことのリスクは軽視できない。一方、会社の規則でBYOXを禁止していたとしても、「バレなければ大丈夫。問題を起こさなければ大丈夫」と考えるのが人の常だ。しかもBYOXを実践している人には「もっと仕事を効率的に進めたい」という前向きな動機もあるだろう。

 単に「個人端末の業務利用を全面的に禁止すればいい」という視点だけでは、BYOXの広がりに対処できない。企業のシステム担当者はBYOXの実態を把握し、実情に即した対応策を考える時期にきているのではないだろうか。