社会保障・税に関わる共通番号制度、通称マイナンバー制度に関する初めての一般競争入札が、いよいよ7月末に実施される。内閣官房が6月8日に公告した「社会保障・税に関わる番号制度が情報システムへ与える影響に関する調査研究」という委託業務案件である。7月31日に入札・開札が行われ、落札事業者が決まる。入札の要件となる「技術等提案書」の提出はすでに7月9日に締め切られた。

 マイナンバー制度に関しては、これまで2件のRFI(情報提供依頼)が実施されている。最初は、2011年9~10月に内閣官房が実施した、行政機関間の個人情報の中継を担う「情報提供ネットワークシステム」と、住民が自己情報を確認するための「マイ・ポータル」についての案件。総務省など国が直接運営・管理することを想定したシステムであり、RFIで集まった情報の一部は2012年3月に公表された(関連記事)。

 2番めのRFIは、総務省が2012年1~2月に実施した。同省が所管することになっている「マイナンバー付番システム等」に関する案件である。住民基本台帳の住民票コードを基にマイナンバーを生成して住民に割り当てる「付番システム」と、マイ・ポータルへのログイン認証などを担う公的個人認証システムに関する情報を求めた。これらのシステムは、総務省が所管する現行の地方自治情報センター(LASDEC)を廃止して2013年4月に地方共同法人として設置する「地方公共団体情報システム機構」が運営にあたることになっている。

 今回の案件は、二つの点でこれまでの案件と大きな違いがある。一つは、調査・研究ながらマイナンバー制度では初めての調達入札であること。もうひとつは、これまでのRFIが国の運営・管理するシステムに関する案件だったのに対し、地方公共団体のシステムを主な対象としている点である。

政治の混乱で尻に火

 内閣官房は当初、情報提供ネットワークシステムやマイ・ポータルに関して、2012年4月に調達入札を公告して6月中に落札事業者を決定するスケジュールを描いていた。ところが、マイナンバー法案は2月に国会に提出されたものの、“本丸”である社会保障・税の一体改革法案が消費税率上げを含むことなどから国会審議が紛糾。会期延長と民自公の連携合意でようやく一体改革法案の成立にはめどをつけたものの、民主党の分裂騒ぎもあって、マイナンバー法案などのその後の審議のスケジュールが不透明になっている。

 情報提供ネットワークシステムなどの国が運営・管理するシステムの調達に関して内閣官房は、「支払い金額が相応に大きくなるためマイナンバー法案の成立を待って実施する」意向である。このため、技術仕様の検討や調達仕様書の作成などの準備は進められても、現状ではいつシステム調達入札を実施できるか見通せない。同様に総務省も、住民基本台帳法や総務省設置法の一部改正など、マイナンバー関連法案の成立の見通しが立たず、システム調達を実施できていない。

 内閣官房のマイナンバー制度導入のロードマップでは、2年後の2014年10月に住民へのマイナンバーの割り当てを開始する。つまり付番システムはそれまでに本稼働させる必要がある。また、情報提供ネットワークシステムとマイ・ポータルは、本番運用開始は2016年1月だが、単体テストは2014年12月に完了させる計画である。ともに大規模で前例がない新システムの構築でありながら、目標完成時期まで2年あまりとなった現時点でも構築事業者を決められるめどが立たず、現行ロードマップは見直しを迫られる可能性が高まっている。

 こうして支払額が数十億から数百億円になりそうな大規模システムの調達が実施に移せないことで、それほど金額が大きくならない今回の調査・研究案件が調達入札の第1号に浮上した格好だ。とはいえ、この調査・研究案件も、スケジュールに余裕があるわけではない。調達仕様書は「社会保障・税を総合的に取り扱う地方公共団体での情報システムの構築・導入作業が非常に厳しいスケジュールの下(で)進めなければならない」と、危機感をあらわにしている。