「コンピュータ事業の原点回帰」。そんなことを感じさせたのが、NECが12年6月28日に発表した大型メインフレーム「i-PX9800」だ。自社開発プロセッサ「NOAH-6」を搭載している。同社は10年以上前、開発費削減のために独自プロセッサの開発を断念し、米インテルのItaniumに切り替えた。それを再び膨大なコストのかかる独自プロセッサの開発を再開したのは、なぜなのだろう。

 最大の理由は、ItaniumでACOS-4系ユーザーの期待に応えられる性能を実現できないと判断したことにある。Xeonと比べてItaniumのマルチコア化が遅れていることや、米オラクルがItanium対応ソフトの開発を打ち切るなど、他社の技術に依存していると大型メインフレーム事業を継続させるのが難しい状況になってきた。NECによると、約7割のACOSユーザーが資産継承を求めており、このままではACOS-4離れが加速するとの危機感があったのだろう。

 しかし、NECがメインフレームにかける意気込みはどの程度あったのだろう。新型メインフレームの記者会見には、サーバ事業部長、ITハードウェア事業本部長、ITソフトウェア事業本部長、さらにそれらを統括するプラットフォームビジネスユニット担当役員の庄司信一執行役員も出席しなかった。メインフレーム事業に精通していないからだろうか。今後のメインフレーム戦略を語れないからだろうか。あるいは、力を入れる事業ではないからだろうか。いろんなことを考えてしまう。

収益性の高いメインフレームはNECに欠かせない存在

 だが、記者会見に臨んだメインフレーム開発担当の中島義博氏(サーバ事業部 事業部長代理)は、それを否定する。ACOSの収益性は高く、安定した収益源でもある。ACOSの売り上げは200億円超と見られるが、利益率はサーバーやパソコンなどのハードウエアに比べると格段に高い。そこからソフトウエアやシステム構築の需要も生まれる。2012年度に営業利益1000億円を達成するうえで、欠かせない製品というわけだ。

 クアッドコアのNOAH-6は約3年の歳月をかけて開発した。「NOAH-5に比べて、半分以下の開発コストに抑えた」(中島事業部長代理)という。OSも機能強化したACOS-4/XAを開発し、3年前に発売したi-PX9000の3.5倍のCPU性能を実現した。メインフレーム本体は3年間で約150台の販売を見込んでおり、約20社のユーザーが既に検討に入った。「好評だ。投資は回収できるし、今後も開発を継続する」(同)という。

 NECの社内から、独自プロセッサの開発を喜ぶ声が聞こえる。競合ITベンダーも評価する。ITベンダーとして存在感を示すなど、固定費削減を推し進めるばかりだったNECにとって、久々の明るい発表だったからだろう。それを成果に結びつけるうえでも、NECは自らの技術力と販売力に自信を持って、ACOSの新しい用途を開拓する強い姿勢を見せてほしい。

■変更履歴
記事公開当初、3段落目で「庄治信一執行役員」としていましたが、正しくは「庄司信一執行役員」です。また下から3段落目で「中島善博氏」としていましたが、正しくは「中島義博氏」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2012/07/13 11:40]