今年3月に「リーン・スタートアップ」の特集『起業の成功率を上げる「Lean」の教え』を書いた後も、スタートアップ企業が集まる場所に積極的に顔を出している。FacebookやATND、PeaTiXのようなソーシャルメディアやイベント支援ツールなどを通じて情報が入りやすくなってきたこともあるが、起業やサービス開発をテーマにしたイベントはますます増えているように感じる。

 筆者がスタートアップに興味を持つ動機は単純明快だ。「集まってくる人たちが魅力的で、面白いから」である。彼らの話を聞くと、起業の動機は様々だが、多くの人が自身が使いたいものを作り、身の回りの不便や課題を解決しようとしている。その「世界」がたとえ小さくても「世界を変える」と公言するのは痛快だし、そのチャレンジにはエールを送りたい。

 売り上げや利益維持のために汲々とし、新しいことに挑戦するどころかヒット商品の二番煎じでお茶を濁している大企業が多い昨今、スタートアップ企業の小さくとも独創的な開発や挑戦の積み重ねにこそ未来があると信じたい。

 大企業にとっても、今後は社外のスタートアップ企業に目を向けざるを得ないはずだ。シリコンバレーで急成長しているベンチャーキャピタルのフェノックス・ベンチャー・キャピタルCEOのアニス・ウッザマン氏は言う。「日本企業は、新規事業を内部で興す余裕がなくなっている。こうなると、新規事業は外部から取り込まざるを得ない」。これは、IPO(新規株式公開)やM&A(企業合併や買収)などのエグジット戦略が描きにくいと言われてきた日本のベンチャー事情においては大きな転機になるかもしれない。

 残念ながらスタートアップのすべてが成功するわけではないが、その経験を通じて、当事者や社会全体の貴重な財産になることを願っている。NTTドコモの「iモード」開発の立役者の一人である榎啓一氏は、iモードの成功を新大陸の発見になぞらえていた。その言葉を引用するなら、スタートアップの経営者は、未知の新大陸を探す冒険者と言えよう。明日の針路は自分で決めるしかないし、自らの判断ミスで命を落とす(=事業に失敗する)こともある。こう考えると、スタートアップ企業を経験した人は、五感が研ぎ澄まされ、行動力に満ちた人たちである。仮に結果がうまくいかなかったとしても、そんな経験が大事にされる社会であってほしい。

 さて、筆者は3月の特集の続編となる記事を準備中である。まだ整理途上というところだが、いくつかの論点を考えている。

データが大事
 これは、先日デジタルガレージのOpen Network Lab(Onlab)が開催したイベント「Onlab[DATA]Conference」を聞いて思いを新たにした。「シリコンバレーのスタートアップ企業はデータを重視している」(Onlabの前田紘典氏)ことから、現地のスタートアップ経験者を招き、その実例を紹介したイベントである。

表現力・発信力を磨く
 フェノックスのウッザマン氏は「アイデアについては、日本人も米国人にもそれほど違いはない。違うのは、世界に向けて表現できていないことだ」という。アイデアを持っていたとしても、形にして世に問わない限り、存在しないに等しい。

企画力を研ぎ澄ます
 起業支援プログラム「ブレークスルーキャンプ」を主宰する赤羽雄二氏は「スタートアップの成功に向けて日本に足りないものはいろいろあるが、まずは企画力」という。同氏は、仮にアイデアを持っていても、それをうまく形にできない、伝えられないと指摘する。

リーダーシップ
 大企業にいると合議制で結論を出したがるが、合議制からはいい企画やアイデアは出てこないし、何しろ遅い。状況をとらえ、的確な判断ができるリーダーの存在が欠かせない。

大企業への適用
 ユーザーからのフィードバックを基に仮説の構築と検証を短期間で繰り返すというリーン・スタートアップの手法を、大企業の新規事業開発にも生かせないものだろうか。大企業特有の課題があるはずだ。

 こんな論点をつなぎあわせ、方向性を示す「線」となり、参照できる「面」となる特集を構成してみようかと思っている。また、これらのテーマで意見交換できるリアルイベントを開催したいとも考えている。私が見落としている視点やご意見、イベント開催に向けたご提案があれば、本ページからTwitterやFacebook経由でお寄せいただけると幸いだ。