はたしてデータセンター事業は、これからも日本国内で成り立ち得るのか。最近、そんな“悲鳴”をITベンダーの関係者から聞くことが多くなった。その原因は電力料金の値上げ。ユーザー企業も海外に情報システムを移すことに抵抗感をあまり持たなくなりつつあるから、国内のデータセンターから情報システムが海外に流出するというシナリオも現実味を帯び始めている。

 データセンターの運用コストのうち、電力料金の占める割合がどれくらいかというと、およそ3分の1だそうだ。当然、電力料金が大幅に値上げされると、運用コストが跳ね上がる。原発の再稼働がどうなるか次第だが、東京電力管内だけでなく関西電力管内などにあるデータセンターは厳しい状況に追い込まれる。

 まあ、電気料金の値上げが単なる“国内問題”ならまだよい。値上がり分をデータセンター事業者とユーザー企業のどちらが負担するかという話にすぎないからだ。また、原発とは無縁の沖縄や、涼しくて電力消費が少なくて済む北海道あたりにデータセンターを置くという手もある。実際、沖縄や北海道では新たなデータセンター建設の動きが活発になっている。

 だが、そうは問屋が卸さない。震災と原発事故以降、多くのユーザー企業は情報システムのロケーションに対する視野が広くなったからだ。従来は「いざという時に駆けつけられる場所にデータセンターがなければ」、「重要なデータを外国に置くなど、とんでもない」だったが、今やそうした“こだわり”は薄れつつある。むしろ、運用コストや災害リスクなどから、海外に情報システムを置いたほうがよいと考えるユーザー企業も出てきている。

 こうしてユーザー企業の視野が広がると、沖縄などの国内を飛び越えシンガポールや上海、そして韓国の釜山など情報システムの新たなロケーションの候補地が見えてくる。そうなると、高い地代が乗り人件費も高く、もともとの電力料金が高い国内のデータセンターは、競争力の乏しい存在に転落してしまう。電力料金の値上げは、まさにダメ押しと言ってよい。

 多くのユーザー企業がアジア市場開拓に力を入れていることもあり、こうした情報システムのアジア移転はかなり現実的なシナリオだ。今後、情報システムをプライベートクラウド化すれば、物理的な情報システムを置く場所はどこでもよい。コスト面などを考えて、グローバル最適配置すればよい、ということになるからだ。

 実はそうなると、データセンターだけの問題ではなくなる。ユーザー企業の情報システム部門の主要機能も海外に移転されるかもしれない。ITベンダーの立場から言うと、システム運用の仕事はもちろん、アプリケーションの開発・保守業務も海外に流出する可能性が高くなる。まあ、ITベンダーも海外に出て行けばよいわけだが、その分、国内のビジネスは縮小する。

 というわけで、電力料金の値上げは国内のIT産業にとって大きなマイナスのインパクトがある。原発をどうするのかという“国家の大事”に比べれば、電力料金値上げで一産業が被る影響など取るに足らない“小事”なのかもしれない。だが、本当の大事はその中に潜んでいるように思う。