いまさらと思われるかもしれないが、「ビッグデータ」に置き換わる言葉を考えることがある。ITproのFocusテーマにビッグデータが加わることが決まった昨年末、その担当者と次のような会話を交わして以来である。

「ビッグデータという言葉は適切なんでしょうかね。何か別の言葉はないのでしょうか」

「確かに漠然としているよね。データを使いこなすというニュアンスを出すために、記事中ではビッグデータ活用としている場合が多いけど」

 もはや、ビッグデータという言葉はIT業界を超えてビジネス分野全般に広く浸透しつつある。それでも、この言葉が適切かどうかを意識する機会は多い。例えば、今年に入ってからでも「ビッグデータはバズワードか」という記事を書いたときや、先ごろ発行した「1冊でわかる ビッグデータ」というムックのタイトルを見たときに、「ビッグデータ」とは何を意味する言葉なのか、それに置き換わる言葉はあるのかを考えざるを得なかった。

 ビッグデータの定義そのものは、大まかながら次のように言い表せるだろう。ビッグデータそのものを意味する狭義の定義である「多種多様で膨大なデータ」、そしてこれを扱うための技術や利活用方法を包含した広義の定義である「多種多様で膨大なデータを収集して分析し、有用な意味や洞察を見いだす活動」である。

 ビッグデータが注目を集め始めた当初は、狭義の意味で使われることが多かった。そのため、多種多様で膨大なデータを扱うための技術、あるいはデータを利用するための方法を指すときには、「ビッグデータ技術」や「ビッグデータ活用」という表現で使われていた。こうしたビッグデータ技術/活用が広まるにつれて最近では、ビッグデータを用いた活動を指す広義の意味で使われることが多いようだ。そのため、技術や活用といった単語を伴わずに、「ビッグデータ」だけで使われることが増えてきている。

広義のビッグデータの構成要素

 ビッグデータを置き換える言葉を考えるうえで、広義のビッグデータの構成要素を考えてみよう。

 先に述べた「1冊でわかる ビッグデータ」の場合も、広義の例である。「基礎から利活用まで」とサブタイトルで銘打っているので、事例として取り上げている企業活動は以下のようにさまざまだ。

  • 膨大なデータとして蓄積された顧客の履歴情報を分析して受注効率を高める事例
  • クレーンの稼働状況を分析してメンテナンス効率を上げる事例
  • Webサイトでの行動履歴を生かしてクーポンを配信し、実店舗への来店につなげる事例

 キーワードで言えば、ソーシャルメディア活用の事例もあれば、機器同士やシステムがネットを介して情報をやり取りするM2M(Machine to Machine)も、オンライン(EC)とオフライン(実店舗)を連携するO2O(Online to Offline)もある。そして利活用するために押さえておくべき個人情報の取り扱いのポイントや、データ活用の専門家不足といった課題についても扱っている。

 こうした多彩な活用事例を切り口に、事例を支える基盤といえる各種技術が「ビッグデータ」を構成する。具体的には、レポーティングから予測へと進化するBI/BA、リアルタイム性を重視するデータウエアハウスやインメモリーコンピューティング、データストア関連のNoSQLやストレージ、そして分散処理ソフトの代名詞となったApache Hadoopなどである。

 そして、これらの技術で扱うデータ、言い換えれば狭義のビッグデータもさまざまだ。一口に「多種多様で膨大なデータ」といっても、量が膨大で扱えなかったデータもあれば、これまで見過ごしていたり捨てていたりしたデータもある。

 ビッグデータという言葉の広まりにより、データ活用の重要性が再確認された今、データ活用を新たなビジネスチャンスにつなげるためには、多義にわたるビッグデータという言葉を構成する各種要素を整理し、自社にとってどれが役に立ちそうかをきちんと見極める必要がある。大手ITベンダーがビッグデータの活用支援サービスに乗り出しているのも、データ活用に関心はあるものの、「では、どうすればよいか」が具体的に分からない企業の潜在ニーズをとらえるためだろう。

 以上を踏まえたうえで、ビッグデータに置き換わる言葉はあるのだろうか。「情報爆発」という言葉を使い続けるという選択肢もあったかもしれないが、それでは従来から使われていただけに、増え続ける業務系のデータやWebサイトの情報に直結し、クラウドやモバイルの普及により爆発的に増えるソーシャルメディア関連の情報やセンサーネットワーク経由で集積される情報については想起しにくいようだ。

 意味的には「新世代大規模データ活用」となるのかもしれないが、全然しっくりこない。「言葉は生き物」と割り切りつつ、ビッグデータの意味を日々見直しながら、本サイトやイベントなどを通じて最新動向をとらえ、お伝えしていきたいと考えている。