「受託ソフト開発会社は生き残れない。当社だって、変わらなければ生き残れない」。NTTデータの山下徹社長は2012年5月21日、野村総合研究所(NRI)と共催した「ITと新社会デザインフォーラム2012」の記者会見で、こんな爆弾発言をした。実は、5月8日の同社11年度決算説明会でも、「受託ソフト開発に寿命が来ており、(いずれ)なくなる」との見解を明らかにしている。

 山下社長が指摘する通り、国内中心に事業を展開する受託ソフト開発会社の業績は低迷している。2007年度をピークに売り上げは下がり続けていて、07年度と11年度の売上高を比較すると、JBISホールディングスが26%減、日本ユニシスが24%減、CECが24%減、富士ソフトが21%減、NSDが21%減と、軒並み2ケタのマイナスである。堅調なNRIでさえ2%減だ。

 大手で唯一、NTTデータが16%増と大きく売上高を伸ばした。しかし、それは国内外でのM&Aによるものである。

不採算案件はなくならず、成長戦略も描けず

 こうしたなかで受託ソフト開発各社は、11年度に人件費を含めた固定費などの削減で利益の落ち込みに歯止めをかけた。しかし、11年度決算でも相変わらず数億から数十億円の不採算案件が発生している。不採算案件の撲滅運動は約10年前から取り組んでいるが、その効果はいつになったら出るのだろう。

 受託ソフト開発会社にとっての最大の問題は、IT投資に見合う効果が表れていないことにある。ユーザーのニーズを的確に把握できていないことを示している。しかも、将来の成長に向けた具体的な施策をまとめ上げられていない。長期ビジョンを描けていないのだ。

 もちろん、全く手を打ってこなかったわけではない。基本戦略に受託ビジネス基盤の強化などを挙げている富士ソフトの坂下智保社長は、11年度決算説明会で「受託開発の付加価値を高める一方、プロダクト・サービス化などを推進し、人の頭数に頼らないビジネスを創っていく」と説明した。

 インテックとTISが経営統合して08年に誕生したITホールディングスの岡本晋社長も11年度決算説明会で、社内外の環境変化に対応するため、「ビジネスモデルの変革(受託開発からサービス提供へ)、ビジネス構造の変革(労働集約から知識集約へ)、顧客との関係の改革(ITパートナーから価値創造パートナーへ)、競争環境の変革(国内競争から国際競争へ)」といった構造改革に取り組むとする。

変化を認識していても、構造改革に踏み切れない経営者

 だが、システム開発事業のサービス化やグローバル化は、もう何年も前から指摘されていること。それを決算説明会の場で改めて話す理由は何か。1万人、2万人の社員を抱える大手・中堅は大きく舵を切るのは難しく、意識の変化に時間もかかると言いたいのだろうか。

 変化を認識していても、構造改革に踏み切れない経営者がいる。改革の手段すら分からない経営者もいる。もたもたしている間に、売り上げはどんどん下がっている。NRIの藤沼彰久会長もITと新社会デザインフォーラムで、「ITゼネコンがじり貧になる」とし、多重下請け構造の崩壊を予想する。

 では、誰が構造改革を先導するのだろう。誰が新しいビジネスモデルを創出するのだろう。

 NTTデータ経営研究所の三谷慶一郎コンサルティング事業部門長は「1人でも、NTTデータを凌駕できる」と、中小ソフト開発会社にも期待する。クラウドサービスをうまく使えば、コストと時間をかけずに、ITインフラを構築できるからだ。事実、クラウドをITインフラに活用したサービス事業を展開する中小ソフト開発会社は増えつつある。

 一方、大手・中堅の多くは岐路に立ち止まったまま、いまだに周囲の様子をうかがっているかのようだ。このまま構造改革が進まなければ、「この産業がなくなっても、誰も不思議に思わないだろう」(NTTデータの山下社長)。

■変更履歴
記事公開当初、下から4段落目で「藤沼章久会長」としていましたが、正しくは「藤沼彰久会長」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2012/06/01 16:30]