先日、IPv6オペレーションズフォーラムという、インターネットの運用技術者が集う会合で、「LTE(Long Term Evolution)とIPv6」に関する講演を行った。ひとしきり質疑を終えた後に、昨今のIPv6普及を巡る「混乱」について、来場者からコメントを求められた。

 来る6月6日に予定されているインターネットソサエティ(ISOC)主催の世界的なイベント「World IPv6 Launch」では、一部のインターネット接続事業者などが恒久的にIPv6を有効にしようと試みる。既に一般紙の紙面を賑わせているが、ここでのIPv6とNTT東西のフレッツ網内で使われているIPv6が衝突し、様々な障害が予想されているからだ。この件については、3月に開催された「インターネットエコノミー日米政策協力対話(第3回局長級会合)」でもアジェンダとして取り上げられた。課題が山積していることは間違いない。

 ただ10年以上前からIPv6普及に関わってきた人間としては、こうした現状を素直に喜びたい。何も起こっていないところには、何の課題も存在しない。IPv6が重要なアジェンダとして取り上げられたという事実こそ、IPv6の普及に関する取り組みが具体化したことの証左である。

 実際、国内の事業者も本気を見せる。World IPv6 Launchの準備に向けて、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)はたびたびガイドラインを改定している。単なるイベントではなく、今後のインターネットの分水嶺となるという認識が、プロの間でも広まっている。

 もっとも一連の議論の中で、NTT東西に代表される“キャリアネットワークこそが問題”、と言わんばかりの論調が存在していることは看過できない。確かにインターネット技術を標準化する組織であるIETFでは、通信事業者の色が薄い「トランスペアレントなインターネットを是とする」旨を表明している。

 しかしこれは、いわば「鶏と卵」の問題である。多くの事業者やコンシューマーにとって、インターネットの接続性確保には、通信事業者による高品質のサービス提供が欠かせない。そして事業者が商売をする存在であるのだとしたら、一定の枠内で比較的自由にネットワークやサービスを構成することは認められるべきだ。その自由が著しく毀損されるとなれば、今度は株主などから反発を招くだろう。

LTE環境でのIPv6の行方に注目

 IPv6への恒常的な移行に向けては、むしろこれからは携帯網に注目すべきだろう。M2M(マシンツーマシン)などを考えれば、固定網以上に携帯網におけるアドレスの払い出しは重要な意味を持つ。

 だとすれば固定網の普及全盛期よりも、なお一層、通信事業者の存在感は増すだろう。なにしろ携帯網では、MVNOを除けば、1社ですべてを提供できる事業者がほとんどだ。特にLTE環境において、事業者がどのようにIPv6をサポートし、アドレスを払い出しているのか課題を整理しておく必要がある。実は一口にLTEと言っても、基地局、RAN(Radio Access Network)、コアネットワークなど各要素の稼働状況や、3Gからのマイグレーション過程におけるCSフォールバックやIMS(IP Multimedia Subsystem)の実装状況は、通信事業者によって異なる。

 こうした状況を確認するうえでも、ISOC主導で進められる「World IPv6 Launch」に幅広く事業者が参加することに意味がある。検証は、米国が要望する「トランスペアレントなインターネット」の合理性や課題、コストを明らかにする機会にもなる。

 IPv6は私たち日本人も使える情報資源である。「World IPv6 Launch」を黒船の襲来と怯えることなく、実直な議論を進めたい。