これまで「在庫は悪、罪庫だ。すべて減らせ!」とまで言っていた企業の経営者の多くが、「やはり必要な在庫や材料は持っておかざるを得ない」というスタンスに変わってきた。企業によっては、昨年秋に発生したタイの大洪水で、東日本大震災以上の減収減益などの被害を受けており、もはや見直しは待ったなしの状況である。

 こうした中、「有事にも柔軟に対応できるムダな在庫や材料を持ちたい」「ムダによって経営効率を下げない」という相反する条件を、サプライチェーン管理(SCM)の見直しやITの活用でバランスさせている企業を、製造業中心に10社近く取材した。

 詳細は、東日本大震災などの非常事態を踏まえたSCMについて取り上げた日経コンピュータ2012年5月10日号の特集記事「『ムダの最適化』に挑む 想定外が変えたSCM新常識」をお読みいただきたいが、「ムダの最適化」で成功している企業は、顧客や市場との距離を極限まで縮めている。一見ムダな在庫や材料を持つが、他人任せのブラックボックスを極力減らすことで、余分な在庫を単なるムダにせず、それらが眠らないような工夫をしている。

 例えば、石油ファンヒーターの市場で国内シェアの半分を握るダイニチ工業。売れ筋製品はシーズン前の夏までに生産してしまい、100万個もの在庫を積み上げる。その一方で、売れ筋以外の製品は、量販店などの顧客から午前中に注文を受けたらすぐに生産に取りかかり、その日の午後には出荷してしまう。その名も「4時間ハイドーゾ生産方式」だ。

 日用品大手のアイリスオーヤマは全国にある8工場に、1万品目以上の製品を在庫できる巨大な自動倉庫を備えている。巨大な倉庫を持つのは、同社が問屋の機能を併せ持つ「メーカーベンダー」と呼ぶ特殊な事業形態を採用しているからだ。問屋でもあるため、ホームセンターなどの顧客や市場の生の情報が入りやすく、売れ筋製品の入れ替えに生かしている。同社は年間1000もの新製品を投入しており、3年以内の新製品が売上高の半分を占めるという。

 両社とも節電や豪雪などによる需要を首尾よく取り込んで好調だ。アイリスオーヤマは2011年12月期に過去最高の業績を記録し、ダイニチ工業は2012年3月期の決算発表前に業績を上方修正した。前述の特集には、両社以外の事例も取り上げている。ムダの排除をし続けたがゆえに工場ごとに独自の進化をしてしまったり、他人任せのブラックボックスが増えたりした日本の電機業界などにとって、復活に向けたヒントになるのではないだろうか。