少し前から通信事業者の「グローバル調達」について意見を求められることが増えてきた。端末の話に限らず、インフラ側の通信機器も含めてだ。

 これまで日本の通信市場では、日本ベンダーの製品の優位性が揺るがなかった。それが、ここにきて海外ベンダーの勢いが増している。コスト競争力だけでなく、来るべきスマートフォン全盛時代に向けた機能面での優位性がアピールポイントになっている。

 契機となったのは、年末年始に生じたNTTドコモの接続障害とみられる。この件は、総務省による行政指導にまで発展した。これを受けてNTTドコモは、目下、改善に取り組んでいる。

 ドコモに限らず、これまで日本の通信電話事業者がフィーチャーフォン向けに設計・最適化してきたインフラは、スマートフォンの予測不可能なトラフィックに耐えられないと指摘されている。スマートフォンの普及がピークを迎える今年から来年にかけて、すぐにでも対策が必要だ。このため、既に製品として成熟したものが求められる。この点、スマートフォン向けのインフラ設計・最適化に関しては、現時点では海外ベンダーに一日の長がある。これが通信機器の「グローバル調達」の機運が増している背景である。

 これらの動きはスマートフォンの普及が背景となる以上、将来にわたって通信産業全体に影響を及ぼす。端末のみならず通信機器においても、いよいよ日本の通信市場が国際化に正対せざるを得ない時が訪れたということだ。

 攻め込まれる立場となった日本の通信機器ベンダーも動いている。例えば富士通は2012年1月に米国で開催された2012 International CESで、LTE対応のフェムトセル基地局を発表し、好評を博していた。この基地局は日本だけでなく海外市場での展開を視野に入れている。

 NECもBSS(ビジネス支援システム)ベンダーである米コンバージズの買収を発表した。既に2008年にはOSS(運用支援システム)ベンダーのネットクラッカー・テクノロジーを買収済みで、今後はOSS/BSSを統合したソリューションの提供を進めるという。同ソリューションは、エリクソンなど海外の大手通信ベンダーが力を入れる領域であり、NECとしても海外市場での競争に正面から向かい合うことになるだろう。

性能に依存した事業スタイルの日本勢

 こうしたグローバル調達のトレンドに関連して、もう一つ相談されることが多い点が「人材戦略」である。
 海外展開を進めようという機運は、日本の通信産業全体で高まっている。一方で、現場とマネジメントの両面で、どのように人材を育てて、海外戦略を進めるべきかなのか、悩ましい課題となっている。

 日本勢の競合となる韓国や中国ベンダーは、言語などを含めて現地に徹底して溶けこむ人材のローカライズ戦略を取ったり、圧倒的なファイナンス力を駆使したビジネスモデルを開発したりすることで躍進してきた。

 このようなビジネスモデルとマーケティング活動が海外事業展開のカギを握る中、日本勢は残念ながらまだ製品・サービスの性能に依存したスタイルとなりがちでもある。

 さらに、これまで大手通信事業者を中心に、垂直統合方式や護送船団方式で海外へと出ていく手法が進められてきたが、こちらも曲がり角に来ている。

 4月には、NTTドコモと日本メーカー、韓国サムスンとの合弁事業「通信プラットフォーム企画株式会社」の清算が発表された。様々な事情があるとはいえ、もはや大手通信事業者といえども垂直統合方式や護送船団方式を維持する余力がなくなりつつある。今年はいよいよ、通信産業の「グローバル化元年」となるのかもしれない。そう感じさせる、2012年の春である。