「SI(システムインテグレーション)時代の終焉だ」――。スルガ銀行が日本IBMにシステム開発の失敗による損害賠償を求めていた裁判の第一審判決(日本IBMの敗訴)について、スルガ銀側から意見書を提出していたAITコンサルティングの有賀貞一代表取締役は、こんな興味深い発言をした。この判決はITベンダーにとって、一つの時代の終わりを告げているかのようだ。

 判決が下った翌日の2012年3月30日、日本IBMは社長の交代を発表した。新社長は元独IBM社長のマーティン・イェッター氏。5月15日に社長に就任する。57歳の橋本孝之社長はわずか就任3年余りで退くことになる。

 新聞や専門誌は日本IBMの社長が外国人に交代する理由を、日本IBMの「業績不振」と「独自路線」にあると報道している。確かに、日本IBMの売上高は2001年度の1兆7075億円から2011年度に8681億円と半減した。だが、パソコンなどの生産縮小・撤退に加えて、企業のIT投資抑制を考えれば、売り上げが落ち込むのは当然のことと思える。事実、日本のITベンダーやITサービス会社の売り上げは下がる一方だ。

日本IBMの独自SI路線から脱却か

 社長交代の本当の理由は、もう一つの「独自路線」のほうにありそうだ。富士通やNECなど日本のITベンダーが業務アプリケーションの領域に深く踏み込む中で、日本IBMも対抗上、追随したと思われる。これが世界のIBMの中で、日本の独自路線となった。

 だが、基本的にシステム開発はユーザー主導で行うべきものだ。そのうえでITベンダーは、ITインフラや開発環境を用意し、開発工程の自動化に取り組むべきではないか。いわばシステム開発の工業化である。

 日本市場を尻目に、IBMはそんな工業化の時代に向けていち早く歩み始めていた。ルイス・ガースナー会長(当時)が1999年から2000年にかけて、「電気、ガス、水道、電話に次ぐ、第5番目のユーティリティがITになる」とユーティリティコンピューティング時代の到来を予想し、仮想化や自律化、統合化などの技術開発を強化した。

 それから10年以上経過した今、セールスフォース・ドットコムやアマゾン、グーグルなどがITユーティリティ環境を整備し、彼らが用意する開発環境を活用したアプリケーションがサービスとして提供される時代に入った。いつでもどこからでも使えて、使った分だけを支払うITユーティリティである。