いわゆる“言葉狩り”には反対だが「使いたくない言葉」は自分にもある。多くは英単語の片仮名表記である。

 「数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語」を使わない話は本欄で何度か書いた。2009年に日経コンピュータ誌の編集長をしていた時は職権を活かし、記者の書いた原稿はもちろん寄稿者の原稿であっても「数字と英文字を組み合わせて劣悪な労働環境を示す造語」が出てくると問答無用で削っていた。

 「ユーザーという表現はなるべく避けたい。特に『ユーザー企業』はなんとかしたい。できればベンダーも止めたい」。

 編集長時代にこんな要請もした。これはお願いであって原稿をいきなり直したりはしなかった。「ユーザー」「ベンダー」はIT利活用の現場で普通に使われているからだ。

 筆者も日経コンピュータ誌の記者時代「ユーザー」は使ってきた。ただ「ベンダー」は当時から避けるようにしていた。1985年に記者になった際、編集部にいた先輩から「ベンダーというのはあまり良い表現ではない」と言われたことを覚えている。

 「ユーザー」が気になり出したのは2000年に単行本を編集した時だったと記憶する。経営者に読んでもらおうと縦書きを採用した。日経コンピュータの表記は横書きである。横書きの記事を縦書きにしただけでは読みにくい。英語や数字を直したり分かりにくい言葉を言い換えたりした。

 縦書きに直した文章を読んでいくと「ユーザー企業」「ユーザー」がどうにもひっかかる。その本に出てくる事例の主語はほとんどが「ユーザー企業」で、わざわざ書かなくても意味は通った。そこで可能な限り「ユーザー企業」という文字を削った。

「ユーザー」を使いたくない理由

 それから10年あまり、なぜこの言葉がひっかかるのか、あれこれ考えてきた。日経コンピュータ編集長の時どう説明したか忘れてしまったが、「ユーザーを使いたくない理由」を今どう考えているか書いてみる。「ユーザー」という言葉を使わずに説明しようと書き出したが難しいのでやむを得ず使って書く。

一、曖昧である
 意味が場合によって異なる。企業や組織全体を指す。情報システム部門を指す。営業や工場、管理部門など情報システムを使う部門、あるいはそこにいる人を意味する。さらにその企業の顧客をそう呼ぶこともある。

 利用者を「エンドユーザー」と書く場合もあるが、この言葉はさらに嫌だ。情報システム部門なら情報システム部門、営業部門なら営業部門とはっきり書けばよい。

一、コンピュータ中心である
 当たり前だが金融業は金融を、製造業は製造をそれぞれ生業にしている。金融のため、製造のためにコンピュータを使う。コンピュータは重要だがコンピュータを使うこと、つまりユーザーであることが目的ではない。にもかかわらず金融業や製造業をまとめて「ユーザー企業」と呼ぶのはおかしい。

一、そもそも変である
 社会人になる前の記憶であり曖昧なところもあるが、学生時代に読んだ本や文書の中に「ユーザー」という言葉はほとんど無かった。見慣れない言葉だから記者になって以降も違和感を持ったのではないか。

 特にユーザーと企業を並べて「ユーザー企業」とするのは変である。もっとも日経コンピュータ編集部の記者から「ユーザー企業を使わないとするならどう書くのか」と追及され「利用企業でどうか」と間抜けな返事をしてしまった。「利用企業」もおかしい。