多チャンネル放送でハイビジョン化が進んでいる。BSでは2011年9月時点でBSのハイビジョン放送は11チャンネルにとどまっていたが、2011年10月および2012年3月に新チャンネルが相次いで開局し、現在28チャンネルでハイビジョン放送が提供されている。一方、東経110度CSでは2012年2月に12事業者14チャンネルが衛星基幹放送業務の認定を受けた。現在のハイビジョン放送の数は9チャンネルだが、2012年中には19チャンネルにまで増える見込みである。

 最近の据え置きで使うデジタルテレビは、ほぼすべてがBSおよび東経110度CSを受信できる「3波共用受信機」である。BSハイビジョン放送では、開局記念として期間限定のノンスクランブル放送を多くのチャンネルが行ったため、試しに視聴した読者も多いのではないだろうか。

 BSおよび東経110度CSの二つの放送サービスに先行してハイビジョン化を進めているのが東経124・128度CS放送「スカパー!」である。だが、先行はしたもののハイビジョンへの移行にはいまだ不安な要素を抱えている。

多チャンネルのハイビジョン化で先行する「スカパー!」

 総務省が公開している「衛星放送の現状[平成23年度第4四半期版]」によると、スカパー!では2012年1月1日時点において89チャンネルでハイビジョン放送が提供されている。さらに2012年10月には34チャンネルがハイビジョン放送の開始を予定する。これにより、ハイビジョン放送のチャンネルは120を超える。

 ところがスカパー!加入者(2012年3月末現在で196万3064人)のうち、ハイビジョン放送を視聴できるのは全体の3割程度にとどまる。サービスを手がける事業者のスカパーJSATは、SDTV(標準画質テレビ)放送の「スカパー!SD」とハイビジョン放送の「スカパー!HD」を提供しており、現時点ではスカパー!SDの加入者の方が多い。こうした状況下で、東経124・128度CS放送の加入者数自体がどんどん減少している。今年中に東経110度CS放送の加入者数が逆転することが確実な情勢だ。

 スカパーJSATはスカパー!SD加入者に対し、早期にスカパー!HDへの移行を促すことで、「SDTV放送とハイビジョン放送とのサイマル放送の早期終了」「ハイビジョン放送の加入者数の確保」を目指している。最終的には高画質の多チャンネル放送の楽しさを多くの人に体験してもらい、2006年7月から続く加入者数が前月比マイナスの傾向に歯止めを掛けて、将来的に増加に転じることを目指している。

H.264対応チューナーへの交換が足かせに

 スカパー!SDからスカパー!HDへの移行促進の足かせになっているのが、スカパー!SDチューナーの交換問題である。スカパー!SDの映像符号化方式はMPEG-2であり、スカパー!HDのH.264とは異なる。このためスカパー!SD加入者は、チューナーをH.264に対応する新チューナーに交換しなければならない。スカパーJSATにとって、加入者の多くがH.264 対応チューナーを持たない状態でMPEG-2方式のスカパー!SDを終了すると、加入者の大半を失うことになりかねない。H.264対応チューナーの普及が至上命題になっている。

 東経110度CS放送のチャンネル数は約50チャンネル(SDTV放送含む)である。2012年中にさらに増える見込みだとは言っても、東経124・128度CS放送の240チャンネル超(同)には到底及ばない。同じ多チャンネル放送といっても、東経124・128度CS放送は、よりニッチなニーズに応えられる専門チャンネルがそろっていることを意味する。

 しかし現状のまま、加入者が減り続けると専門チャンネルの経営がどんどん苦しくなる。スカパーJSATは、スカパー!HDへの切り替えを機に収益分配モデルを変えるなど、専門チャンネルが経営をしやすくして、専門性を確保する対策を打とうとしている。しかし、肝心の加入者数が減ればトータルの収入が減少し、分配する原資がどんどん減少してしまう。

 スカパーJSATはできるだけ早期にH.264対応チューナーを普及させて、数多くの専門性の高いチャンネルを多くの世帯にハイビジョンで提供できる体制を実現したい。しかし、スカパー!HDへの移行を進めている中で、加入者底上げのスタートラインにすら立てていないのが現状である。