東日本大震災やタイの大洪水で、多くの製造業が生産活動に支障を来たし、サプライチェーンの見直しを進めた。で、この間、ほとんどお呼びでなかったのが、ITベンダーのSCM(サプライチェーン管理)ソリューションだ。まあ、今回は「ムダの撲滅こそ正義」が否定されたのだから、その権化のSCMソリューションが相手にされなくても当然ではあるが。

 ムダとは在庫のことである。部材、仕掛品、完成品を問わず在庫は限りなくゼロがよい。それを極限的に追求したのが日本の製造業だ。ついでに、ボリュームディスカウントを狙って、部材の調達先を絞ったものだから、震災や洪水などに直撃されると、たちまち生産計画は頓挫する。まさに、社会主義の計画経済と資本主義の効率性の両方を追求した日本の製造業は、想定外の出来事により苦境に陥った。

 「社会主義の計画経済を追求した」とは、日本企業を揶揄しすぎのようだが、実はそうではない。計画通り部材を調達でき、計画通り販売できることを前提に生産するのは、限りなく計画経済に近い。その計画経済を前提に、生産の効率化を図ろうとして在庫削減などに熱中したものだから、大災害などに極めて脆い事業構造になってしまった。

 しかも、日本の製造業にとって最悪の想定外は、震災や洪水ではなかった。これは在庫の話ではなく、「選択と集中の誤謬」の話だが、日本の電機産業を一大苦境に陥れたのは、想像を絶するテレビや液晶パネルなどの値崩れだ。このため、部材メーカーの工場とコンビナート化し、効率化を極限にまで押し進めた電機メーカーの最新工場は、一瞬にして経営を圧迫する“不良資産”となってしまった。

 つまり、災害だけが想定外や非常事態だけではなく、そうしたことは日常のビジネスで常に発生するということだ。このあたりのことは、大手よりも中堅以下の製造業の方がむしろよく分かっているかもしれない。例えば大雪が降ると除雪関連用品は一瞬にして品薄になる。欠品させると小売りから取引を打ち切られる恐れがあるので、日用品メーカーはそうした想定外に備えて必ず“過剰な在庫”持っているという。

 サプライチェーンに話を戻すと、そんなわけだから日本の製造業もムダの必要性を認識し始めた。必要以上の在庫を持ち、部材の調達先を再び多様化し、生産拠点も分散する、等々だ。

 さて問題は、IT、つまりSCM関連システムがどのようにお役に立てるかである。在庫に着眼すれば、それは“ムダの最適化”といったところか。ムダを増やすわけだから、どこにどんな在庫があるかを適切に管理するシステムには強い需要がありそうだ。各地に散らばる実在庫を論理的に統合した「仮想在庫」のソリューションなんか、筋は良いと思うが、いかがだろうか。