「本訴被告は、原告に74億1366万6128円を支払え――」。裁判長が判決主文を読み上げると、スルガ銀行側の弁護士は小さくガッツポーズを見せた。
勘定系システム開発が頓挫したことをめぐり、スルガ銀と日本IBMが争っていた裁判で、東京地方裁判所は2012年3月29日、スルガ銀の訴えを一部認める判決を言い渡した(関連記事1)。東京地裁は、スルガ銀がシステム開発のため支出した費用のうち、開発中止で無駄になったと同行が主張した約74億円を、賠償額として100%認定した。スルガ銀の実質勝利といえる内容である(関連記事2)。
今回の判決のポイントは、プロジェクトの失敗につながる過失がユーザー企業とITベンダーのどちらにどれだけあったのか、という実質部分が問われた点だ。現時点で判決理由が公開されていないため詳細は不明だが、裁判関係者の話を総合すると、日本IBM側のプロジェクトマネジメント義務違反が認定されたとみられる。
一方で、両社が交わした合意書や契約の法的な位置付けについては、判決を左右する論点にはならなかった。
スルガ銀は今回の裁判で、最終合意書をもって「完成したシステムに対し代金を支払う一括請負契約だ」と主張。システムが完成できなかったのは日本IBMが債務を履行しなかったためと主張していた。これに対して日本IBMは、「開発局面ごとの個別契約は履行している。契約上の義務は果たした」と主張。議論は平行線をたどった。
ある弁護士は今回の判決について「契約上は多段階の個別契約であっても、実際は一つのシステムを稼働させるまでの共同プロジェクト、というシステム開発の実態を重視したものだろう」と推測する。いくらITベンダーが個別契約を履行したとしても、プロジェクト全体の失敗につながる過失がITベンダー側にあれば、個別契約でユーザー企業から受け取った費用の返還を迫られる可能性がある。
スルガ銀-IBM裁判は、日本のIT業界に澱のように沈んでいた構造的問題を浮かび上がらせた。プロジェクトをめぐる紛争を未然に防ぐルールやガイドラインの不備から、成果物ごとに細かく契約を交わす契約形態、パッケージを大規模にカスタマイズするシステム構築のあり方まで、なかば放置されていた業界の矛盾が可視化されることになった。
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