しばらく前に、個人が所有するパソコンやスマートデバイスを企業内で使う、BYOD(Bring Your Own Device)について、このコラムを書いた(それでもBYODを無視していられますか)。最近はBYODを売り文句にするベンダーがとても増えている印象があり、BYODを持ち上げるのはそのお先棒を担ぐようで、やや気が引ける。それでも、やはり今後は避けて通れない重要なテーマになるという感覚は変わらない。最近、別の観点でも、それを感じた。

 このところ、企業内の新しいコミュニケーション手段について、いくつか取材している。Yammer(ヤマー)、Chatter(チャター)など、Facebookに似たツールで、企業など組織内での利用を想定したものだ。導入目的は様々だが、根本にあるのはメールやグループウエアとは異なるツールを使って、もっと社内の情報の流れをスムーズかつ素早くしたいということだ。コラボレーションという言葉でも表現される。この動きが、今後さらに加速し、それがBYODにもつながりそうだと思っている。

 以前の記者の眼では、BYODを避けられなくなる背景として、「デジタルネイティブ」に位置付けられる若者のスマートフォン所有率が既にかなり高まっていることを挙げた。これはFacebookなどのSNSについても同じだろう。若者の間では、こうしたコミュニケーションツールを使うことに対するハードルはかなり下がっている。いま企業でこれらのツール導入が盛んになりつつある理由の一つには、若手を中心とした従業員が使い慣れていることがある。

 新たに登場してきたコミュニケーションツールについて取材してみると、ユーザー、ベンダーともに「一番難しいのは定着させること」と口をそろえる。そのために少しでも使い勝手が良いものにしようと、ユーザーもベンダーも工夫を凝らしている。例えば業務アプリケーションの操作中、誰かに質問したくなったとしよう。当然、メールなりインスタントメッセンジャーなり、何らかのアプリケーションを立ち上げるか、電話するかして連絡することになる。このときユーザーは、わざわざアプリケーションを起動するだけでも、使い勝手が良くないとか、面倒だとか感じることがある。これが円滑なコミュニケーション/コラボレーションを阻害する要因になるのだという。このためベンダー側では、様々な機能を一つのアプリケーションに統合したり、ほかのシステムや情報と連動させられる仕組みを持たせたりしている。

 同じ観点で、こうしたコミュニケーションツールを採用している企業のほとんどが、スマートフォンやタブレット端末から利用することを前提としている。思った時にすぐに連絡、返信できる手軽さが、定着させるためのポイントになるようだ。

 メールがすっかり一般に浸透したように、恐らく将来的には、多くのユーザーが仕事でもプライベートでもSNSのようなコミュニケーションツールを使うようになる。その時、前述したように使い勝手を意識するとすれば、わざわざ仕事とプライベートで端末を使い分けることは考えにくい。会社支給の端末で個人のFacebook利用を認めるという方法もあるが、どちらかと言うとBYODと考えるほうが自然だろう。

 実は日経コミュニケーションでは、モニター読者を対象に、BYODを導入する予定があるかどうかを尋ねてみた。すると、現時点ではBYODを許容する企業はかなり少ない(詳細は日経コミュニケーションの5月号に掲載する)。ただ、これはあくまでも今の話。スマートデバイスやモバイルアプリケーション、そしてそれらの使い方は、どんどん進歩していく。そうなれば、利用環境としてBYODを無視できなくなるのではないか。

 今になって言われ始めたことではないが、ICTあるいは情報システムは活用してナンボ。スマートデバイスがICTのさらなる活用を促すことは間違いない。クラウドの活用、BCP(事業継続計画)の強化といった背景も手伝って、近い将来、BYODへの流れから逃れられなくなるのではないだろうか。