前編では、チェンジリーダーとしての役割を自覚していない経営者の多くが、総務課長としては最高の適性を持つ調整型リーダーであること、および、世論や株式市場の動向に流されやすいことを指摘した。後編では、こうした「総務課長型リーダー」のもう1つの欠点として「部下を過剰にコントロールしようとする」問題に触れたのち、彼らが金融機関で引き起こしている重大な問題について説明しよう。

「総務課長型」管理職の拡大再生産

 一般的に、総務課長型リーダーには、部下に対して報告・連絡・相談を徹底するよう求める傾向がある。決断力が弱く臨機応変の対処が苦手なので、予定外の事態の発生をひどく嫌うからだ。

 軽重にかかわらず何でも報告するよう要求し、部下の活動のすべてを承知していないと気が済まない。得意のセリフは「そんな話、俺は聞いてないぞ」である。生真面目なのは結構だが、これでは部下が指示待ち姿勢に陥ってしまうのは避けられない。

 「そんなことはない。部下の自主性を尊重して、細かい指示を出さないようにしている」という方もいるだろうが、部下から報告を受ける際に、胸像のように黙ったままではあるまい。「はい、分かりました」「うーん、それはどうかなぁ」などと反応するはずだ。こうした断片的な言葉でも、報告・連絡・相談を受けるたびに発していれば、全体としては具体的すぎるほどの指示となる。

 部下の立場としては、とにかくまめまめしく報告を上げて、ご指示を拝聴していればよい。そもそも総務課長型リーダーは変化を嫌い、その指示内容も基本的に前例踏襲なので、仕事のコツを身につけるのは簡単である。ただし、それでは部下がいつまでも成長しない。

 特に困るのは、中間管理職が自らリスクを引き受け、判断力や見識を磨く機会を得られないことだ。そうしたチャレンジ不足の管理職は、自分では物事を決められず、上役に献身的にお仕えすることを旨とする総務課長型にしかなれない。

 つまり、総務課長型リーダーが報告・連絡・相談の徹底という形で部下を過剰にコントロールすれば、総務課長型の管理職が組織内に拡大再生産されるのである。

 こうしたなかで、自主性や積極性が強い「攻め」の人材(筆者は「フォワード型」と呼んでいる)は、総務課長型リーダーが求める「枠」の中に収まりきらない。その結果、彼らは次第に社内の傍流へと押しやられ、あるいは締めつけに耐えられずに社外に流出し、組織の活力がどんどん低下していくのである。

間違った方向に進む内部統制

 念のために申し上げるが、筆者は総務課長型の人材を有害と断じているわけではない。どのような組織にも、彼らのような守備の人材は欠かせないものだ。しかし、誰もが守備に専念し、点を取りに行く攻撃の選手がいなくなってしまうと試合にならない。

 それにもかかわらず、多くの日本企業では、「総務課長型」が増殖する一方で、「フォワード型」の人材は先細りとなりつつある。これは、企業の内部統制が発達した結果、総務課長型リーダーが好む「枠」が実体化し、現場に対する過剰なコントロール体制が整備されてしまったからだ。

 「それでも企業としては、内部統制をやらざるを得ないではないか」と感じた読者もいるだろう。確かに法令や社会的ルールに違反することがあってはならない。しかし日本における内部統制の現状は、本来の目的からすると、間違った方向に進んでいると言わざるを得ないのだ

 問題点の1つは、いたずらに手続を複雑化したり、報告事項を追加したりすることだ。違反行為のチェックを重層的・多角的に行うという発想は正しいが、大概は、官僚的なペーパーワークを増やし、中間管理職を疲弊させるだけに終わっている。これは、手続の加重や報告量の増加それ自体が目的化して、チェック機能の実質を高めるという本来の趣旨が忘却されているからだ。

 もう1つの問題点は、非常に詳細な社内規則を整備し、それを聖典のごとく扱っていることである。実務上の指針として社内規則を整備するのは当然だが、それを詳しく書き込みすぎると、現実のビジネスにうまく当てはまらない場面が多々発生する。そうしたときにも社内規則を絶対視して、とにかく規則通りにやれと強制すれば、現場は身動きがとれなくなってしまう。

 旧陸軍では、兵士が軍靴のサイズが合わないと申し出ると、「おまえの足に軍靴を合わせるのではない。おまえの足を軍靴に合わせるのだ」と怒鳴りつけたというが、それと全く同レベルである。揚げ句の果てに、「硬直した社内規則に従っていては仕事にならない」と社員が裏技に走り、法令や社会的ルールには違反していないが、社内規範に違反するという珍妙なコンプライアンス(法令順守)違反事件が多発する。

 以上の問題点は、「総務課長型」管理職であれば苦にしない。もともと変化を嫌ってルーティーンに閉じこもるうえに、部下の仕事ぶりを管理することにも熱心であるからだ。その一方で、新しい仕事に積極的にチャレンジしたり、部下の自主性を奨励したりする「フォワード」型管理職にしてみれば、たまったものではない。かくして間違った方向に進む内部統制が、さらに組織の活力を奪っていくのである。