昨年12月にこのコラムに掲載した『部下は「残念な上司」を口癖で見抜く』は多くの読者から反響をいただいた。タイトルどおり、部下は自分の上司が「残念な上司」なのかどうかを、彼らの口癖から見抜いているという内容のものだ。無意識のうちに口を突いて出る口癖の恐ろしさをお伝えできたと思っている。

 春は入社や異動の季節だ。新しい上司と部下の関係が職場にまた生まれるだろう。そこで今回は、この話を別の角度から考察してみたい。

 書籍『残念な人の思考法』(日本経済新聞出版社)の著者である、アジルパートナーズの山崎将志氏は、「目的や納期をきちんと部下に伝えないままに仕事を頼む上司が増えている」と話す。思い当たる人は、既に「残念な上司」になりかかっている。

 特にここ数年は「電子メールで部下に仕事を頼む上司にその傾向が強くなっている」とも指摘している。筆者を含め、多くの読者もうなずけるのではないだろうか。

 部下の顔を見ずに、メールだけで要件を伝えても、仕事の真の狙いや上司が期待している成果物のイメージは部下に正しく伝わっていないことが多い。手戻りの原因はこんなところにあることを、ビジネスパーソンなら皆、経験上知っている。

 仕事の目的や納期を最初に確認しないのは、部下の問題、部下の方が悪いのではないかという突っ込みが来るかもしれない。確かにそれはそうだ。筆者もそれを否定しないし、山崎氏も「何でもかんでも『はい、分かりました』とだけ言って、引き受けてしまう人は『残念な部下』といえる」。

 しかし、全てを部下のせいにするのは大間違いだ。目的や納期を質問しにくい雰囲気をいつも醸し出している上司は確かに存在する。こうした残念な上司によって「残念な部下が量産されてしまっている」と、山崎氏は残念がる。

取材中に飛び出した「無価値な熟練」という言葉

 ここで山崎氏からは「無価値な熟練」というショッキングな言葉が飛び出した。筆者は山崎氏に取材で何度かお会いしているが、この言葉がこれまで聞いた話の中で最も印象に残っているかもしれない。

 そもそも山崎氏が定義する残念な人とは、「能力もやる気もあるのに成果を上げられないでいるビジネスパーソン」のことである。ポイントは、能力ややる気はあるというところだ。

 例えば、パワーポイントを使って、何枚もプレゼンテーション資料を作るのは得意だ。やる気はあるから徹夜も惜しまず、重厚なパワポ資料を仕上げてくる。そんな部下は周りに大勢いるかもしれない。

 ところがだ。上司が求めていた成果物は、役員会議で幹部たちにプロジェクトの内容を説明する簡潔な補足資料だったり、ピンポイントな数字だけだったりする。そうした確認が全くされないままに部下に仕事を頼んだ残念な上司は、パワポの腕前だけはますます上達するが、職場では価値を生まない「無価値な熟練」の部下をまた1人、量産してしまったことになる。

 これはお互いにとって、不幸以外の何ものでもない。上司は部下にやり直しを命じて、手戻りが発生する。部下は“一生懸命”に作ったパワポの資料を褒められず、逆に期待された成果物とは違うものを提出したために上司からの評価が下がる。こうして部下はやる気を無くしていく。

 こうならないためにも、上司は部下に仕事の目的や納期、成果物のイメージをきちんと伝えるところにこそ、時間を使うべきだろう。それが残念な上司を回避する大切な一歩になる。