昨年、“SEあがりの営業がぶつかる壁”について書いた。その概要は次の通りである。

 「SEから営業になった人の多くは、生粋の営業に比べて売る執念、契約に対する固執心が基本的に希薄である。販売活動の1合目から9合目まではうまく仕事を進められても、残り1合の詰めが甘い。最後の1合は、何が何でも契約書をもらうという執念、受注をお願いするしつこさ、トップを訪問して訴える積極性、顧客の無理な要求にも分かりましたと言う度胸などがものを言う、およそ非論理とも言える世界であるが、SEあがりの営業にはそれがなかなかできない。失注しても、ここまでやったのだから…と往々に満足してしまう。さらに、SEあがりの営業は顧客に対して“会社の代表”としての行動や対応がなかなかできない。彼ら彼女らの多くは、営業になって初めて顧客が営業を会社の代表として見る厳しさを知り、戸惑う。だが、自分のSE時代のやり方や考え方からうまく抜け切れない…」。

 大体このようなことを述べた。そして読者の皆さんから多くのコメントを頂いた。きっと多くのIT企業の方々が深い関心を持たれたのだと思う。

顧客は「技術が分かる営業」を求めている

 SEあがりの営業の多くはこのような課題を抱えている。しかし、前回読者から頂いたコメントにもあったが、顧客は「技術が分かる営業」を求めている。ITやシステム開発やプロジェクト管理が分かる営業を求めているのだ。

 営業が技術に疎いと、顧客は本当に困る。例えば、打ち合わせで「このシステムで、こんなことができますか?」と顧客が営業に質問したとする。すると技術に疎い営業は、技術的根拠もなく「できます。間違いありません」とだけ答えたり、「それは分かりません。調べて返事します」と言って回答に何日もかけたりする。

 また、「この開発はなぜ数カ月もかかるのか」と質問すると、「優秀なSEが見積もったのだから間違いありません…」などと言い、その理由をまともに説明できなかったりする。仮に、営業が困って○○スペシャリストと称するSEを連れて来ても、そのSEは顧客の事情を知らず、一般的なことしか答えない。大体こんな調子だ。

 その結果、場合によっては営業と顧客の間で「だました、だまされた」という話になりかねない。一方、IT企業は第一線の営業が弱いとビジネスにならない。そこで営業の技術力を強化しようと考える。

 多くのIT企業でSEから営業への転換を行っているのは、大体このような理由によるものと思う。だが前述したように、SEから営業になった多くの営業は契約への執念が足りない。また会社を代表した行動や対応もなかなかできない。“御用聞き”的な営業はできるが、厳しい販売合戦を勝ち抜く営業や他社顧客から契約を獲得するような一流の営業にはなかなかなれない。

 ではIT企業はどうすればいいのか。今回はそれについて筆者の考えを述べる。IT企業の方々の参考になれば幸いである。

なぜ「技術が分かる営業」が育たないか

 まず、なぜ技術が分かる営業が育たないのか、それについて考えてみたい。

 自動車業界であろうと、食品業界であろうと、どんな業界でも営業というものは自分が売っている商品をきちっと説明でき、質問にも答えられる。だがIT業界では、それが必ずしもそうではない。昔のハードウエア中心の時代でもそれが容易ではなかったが、システム開発が絡むサービスビジネスの時代になってからは、それが一層難しくなった。

 もちろん、IT業界にも商品をきちっと説明できる営業はいるが、その比率は決して多くはない。なぜ、そうなのか。