東日本大震災から1年、この間、BCP(事業継続計画)についても様々な検証が行われてきたが、まだ十分に検証されていない点がある。それは「人」に関わることである。情報システムであれば、データセンター内のシステムは無事、電力も確保したが、システム運用担当者はいずこ、という話だ。
これは従業員の安否確認のことではない。全員の無事が確認できたとしても、その人たちが会社に駆けつけられるとは限らない。自分が住む地域が大きな被害を受けたら、彼らは救援活動をするか、会社へ行くかの判断を迫られる。そしてよほどのことが無い限り、救援活動を選ぶ。隣のおばあちゃんが行方不明なのに、あるいは避難所でほかの人が被災者救援に走り回っているのに、自分だけ会社へ行くことなどあり得ないだろう。
実際に東日本大震災の際、仙台に本社を置くアイリスオーヤマはそんな事態に直面した。様々なメディアに取り上げられた有名な話だが、従業員は本社工場の復旧作業と被災者救援のどちらを優先すべきかで悩んだ。このときは経営トップが、工場を再稼働させて商品を供給することが被災者支援にもなると説くことで、工場の復旧に向け人心を一つにすることができたという。
こうした対応は、救援活動よりも優先される大義が必要なので、全ての企業でできるとは限らない。堅牢で大震災でもびくともしないデータセンターを持ち、自家発電用の燃料も十分に確保していても、システム運用担当者が「人としてやるべきこと」を優先したら、当然システムを動かせない。つまり、「非常事態においても従業員は仕事を優先する」という前提で作成したBCPは、意味をなさないことになる。
では、どうしたらよいのか。結局のところ、事業を継続するために人をどう確保するかである。そのためには、被災した人以外の人に業務を引き継ぐ計画や体制をつくっておくことが肝要だろう。大企業ならバックアップセンターの整備。それのデータバックアップでは意味がなく、コールドスタンバイでも不安だから、可能な限りホットスタンバイのバックアップ体制をとった方がよい。
それが無理なら、被災地の外から応援に入る人員の確保を考えておくべきだろう。複数地域に拠点のある企業なら、被災地以外の拠点から応援を出す体制・手順をBCPで定めておく。では、首都圏など1カ所しか拠点のない企業はどうしたらよいのか。
こう考えると、ITベンダーのやるべきことが見えてくる。バックアップ体制が完璧なはずの自社のデータセンターやクラウドサービスの利用を提案するとともに、顧客の情報システムが被災した際に応援に出向けるような体制をつくっておく。東日本大震災の際に応援に駆けつけ、顧客から感謝されたITベンダーも少なくないと聞くが、必ずやってくる次の災害に備えて明確な計画として定めておくべきだろう。