うーん、若い…。オバマ政権で2009年3月から約2年半、米国初の連邦CIO(情報統括官)を務めたヴィヴェク・クンドラ氏を取材した際の第一印象は、好青年そのものの風貌だった。

 1974年生まれの同氏は、連邦CIOに就任したときはまだ30代半ば。日本でもネット系企業では30代のCIOに出会うことがあるが、官公庁や大企業ならまだ係長やリーダーといった年次だろう。それが米国政府のCIOである。

 もちろん、事前にプロフィールは把握していたが、それでも取材場所ににこやかに現れた本人を目の前にして、その職責と風貌のギャップに驚きを隠せなかった(インタビューの詳細は日経BPガバメントテクノロジー 2012年春号[日経コンピュータ 3月29日号にとじ込み]に掲載)。

日本でも政府CIOが必要とされながら、もうじき2年

 日本政府は今、「政府CIO(情報化統括責任者)制度」の創設に向け、ようやく具体的に動き始めたところだ。内閣の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)と行政改革実行本部が、連携して両者の下に「政府情報システム刷新有識者会議」を3月中に設置。レガシーシステムの刷新や政府機関システムの統合・集約とともに、政府CIO制度の設計に乗り出そうとしている。

 だが、IT戦略本部が2010年5月に決定した「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)」に政府CIOの必要性を記載してから、もうじき2年。新IT戦略の3本柱(重点戦略)の筆頭に掲げた「国民本位の電子行政の実現」の要となる施策にしては、いかにも取り組みが遅い。

 IT戦略本部は2011年8月に決定した「電子行政推進に関する基本方針」の中で、「これまでの我が国の電子行政推進体制は、明確かつ迅速な決定と責任の下、取組を進めていく統率力・調整力・実行力が十分とは言えず、電子行政の取組が必ずしも十分な成果をあげてこなかった」(基本方針から抜粋)ことを認めた。その対策として、「政府の電子行政推進に係る実質的な権能を有する司令塔」(同)として政府CIO制度を導入するとした。

 現状、日本政府には、米国の連邦CIOのように政府全体のIT戦略・投資を横断的に統括するCIOはいない。全20府省にはそれぞれCIOがいるが、局長級の官僚である官房長などの兼任が多く、専任のCIOはゼロである。各府省CIOを補佐するPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として、官房情報管理課、情報システム室などを設置しているほか、各府省1~4人のCIO補佐官が他業務で多忙なCIOを支えている。

 だが、基本方針が指摘するように、納税者であり行政サービスの利用者である国民の視点に立った利便性の提供や費用対効果の検証までは、全く手が回っていない。例えば、府省の緊密な連携による行政運営の簡素化・効率化などを目指して設置された「CIO連絡会議」は、最近2年間では6回開催されただけで、それも直近の5回は持ち回り開催である。当初の目的を果たしているとは言えないだろう。

変革を成し遂げた“若さ”とリーダーシップ

 前・連邦CIOのクンドラ氏は、米国政府が保有するデータを原則開示する「オープンガバメント政策」や、政府機関のシステム基盤の第1選択肢としてクラウドサービスを活用する「クラウドファースト」政策を強力に推進。ITコストの大幅な圧縮や行政サービスの利便性向上を成し遂げ、さらに政府保有データを活用する新しい民間ビジネスマーケットを誕生させた。IT戦略本部の基本方針などにも同様の戦略が記載されてはいるが、基本方針で認めたようにスピードとリーダーシップが欠けたままでは、実現の見通しは立たない。

 クラウドコンピューティングのような新しいITトレンドであっても、精査によって価値を見いだせれば活用へと大胆にかじを切る---。こうした決断には、保守的にならずに変革を追える“若さ”と、信念に基づく強いリーダーシップが欠かせない。

 年齢だけで制約を設けるのはいかがなものかと思うが、変革が激務であるのは間違いない。クンドラ氏は在任中、週末を除いて朝4時半にオフィスに行き、夜10時まで働いたという。政府CIO個人の年齢はともかく、少なくとも組織としての“若さ”と“体力”は必須の条件だろう。それが変革のスピードアップにつながる。

 もう一つのリーダーシップについては、政府CIOの個人的な功績や資質とともに、任命者となるであろう首相の熱意も問われることになる。「オバマ大統領のぶれない熱意が支えになった」とクンドラ氏は振り返ったが、政府CIOが若ければそれだけ後見役となる首相の決意や使命感が変革の実効性に直接的な影響を及ぼすことになる。

 1日も早く日本の政府CIOに取材できる日が来て、そのときよい意味で驚きを感じることができればと、願っている。