写真1●富士通総研が実施している訓練の様子
写真1●富士通総研が実施している訓練の様子
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 「地震が発生しました。地震が発生しました」。照明が消えたオフィスの中で、アナウンスの声が繰り返し鳴り響く。それまで打ち合わせをしていた人々は、慌てて机の下にその身を隠した。

 照明が点灯すると、周囲の状況が分かってくる。オフィス内は椅子やロッカーが転倒しており、PCは机から落下している。固定電話も携帯電話も通じない。携帯メールはなかなか送信できない。周囲からは叫び声や悲鳴が聞こえる――。

 1年前に東日本で多くの人が体験した震災の状況に似ている、と感じた読者は多いかもしれない。実はこれは、企業の災害対策担当者向けに実施されている、災害対策訓練の様子である。

 筆者は1月中旬、富士通総研が実施している訓練の様子を取材する機会を得た(写真1)。当日参加していたのは9社、20人の社員である。所属は情報システム部門、リスク管理部門、人事・総務部門などさまざま。役職は、部長や課長、リーダークラスが8割を占めた。

状況はめまぐるしく変わる

写真2●2~3分おきに状況の変化がスクリーンに映し出される
写真2●2~3分おきに状況の変化がスクリーンに映し出される
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写真3●情報を整理しながら判断を下す
写真3●情報を整理しながら判断を下す
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 訓練であるため、実際に地震は起きていないし、電話が使えないわけでもない。もちろん、けが人も発生していない。こういった状況下で、どのように対処できるかを身をもって体験する訓練である。訓練室では20人が4つのグループに分かれ、グループごとに災害に対処することが求められる。

 訓練が始まると、状況は刻々と変わる。訓練室中央にあるスクリーンに、2~3分おきに、状況の変化が映し出される(写真2)。「4階でロッカーの下敷きになっている負傷者が数名いる」「台東区と荒川区で大規模な火災が発生している模様」「JR各線が停止している様子」「採用面接に来ていた学生が帰宅したいというがどう対処すればよいか」「受発注システムに障害が発生している」――。

 訓練参加者は、手元の模造紙やポストイット、ホワイトボードなどを自由に使ってよい(写真3)。スクリーンに次々と表示される情報を整理しながら、災害対策の責任者として判断を下し、指示を出す。時にはグループ内で議論になることもある。「いや今帰宅を許可したらかえって危険なのではないか」「4階の怪我人は重傷で動けないんじゃなかったか」。

 そうしているうちに、外部からの問い合わせが次々と舞い込む。「従業員の家族から安否の問い合わせがあった」「専務から工場の被害状況を報告するよう連絡があったがどうすればよいか」「取引先企業から発注していた製品を至急出荷してほしいと連絡があった」。

 息つく暇も無い。しかしこれも実際の災害を模したものである。東日本大震災でもこれに近い経験をした企業は少なくなかったはずだ。参加者の中には、強い口調で率先して状況を整理しようとする人もいれば、事態を把握しきれず棒立ちになってしまう人もいる。

 訓練は約1時間でいったん終了する。その後、災害発生時からの対応内容を「社長への報告書」という体裁でまとめる。それを基にお互いの反省点などを議論し合う。