皆さんは、子どもが何歳になったら「インターネットの安全教育」をしたり、「コンテンツフィルタリング」をかけたりすべきだと考えているだろうか。初めてインターネットに触れる年齢が徐々に下がってきているので、なるべく早いうちにしたほうがいいのだろう。

 頭ではそう思っているが、子どもたちを取り巻く状況は筆者の予想を上回るスピードで変わっている気がしてならない。

 例えば、先日、飲み会で次のような話を聞いた。休日に、自宅の居間で小学校1年生の男の子がiPadに夢中になっていたそうだ。ただ、なんだか人に見られないように、iPadを覆い隠すように見ていた。不審に思ったお父さんが、嫌がる子どもからiPadを取り上げて画面を見ると、そこにはアダルトサイトのページが表示されていた。検索キーワードは子ども自身が入力した。ブラウザーの履歴を調べると、そういうサイトにアクセスしたのはその日が初めてだったようだが、子どもが見るものではなかったし、ワンクリック詐欺などにひっかかっても困る。そのことを子どもに伝え、注意したという。

 筆者にも同じ年の男の子がいるので、この話を聞いたときは動揺した。「自分の息子はまだ幼い」と思っていたから、わが家ではコンテンツフィルタリングをかけていなかったし、インターネットでトラブルに遭わないための安全教育もまったくしていなかったのである。帰宅後に、パソコンなどのブラウザーのアクセス履歴を調べてみたところ、有害コンテンツ(性的・暴力的なコンテンツなど)にアクセスした形跡はなさそうだったが、安心はできなかった。そもそも、子どもたちとインターネットをめぐる現状がどうなっているのか、それが分からず筆者の心の中で漠然とした不安が膨らんできた。

技術的な対策では不完全

 そこで、子どもたちへのITリテラシー教育や地域教育コミュニティ作りを支援しているNPO法人u-School推進コンソーシアム(USEC)に取材をお願いしたところ、教育・研究担当理事の平林慶史氏が快く応じてくださった。いろいろな話をうかがったが、その中で子どもたちを取り巻く状況が筆者の予想を超えていたという点で、次の二つの話が印象に残った。

 一つは、そもそもフィルタリングで子どものインターネットアクセスを制限しようと思っても、いろいろと抜け穴があるという話。「環境の変化が速いので、不毛ないたちごっこになってしまうかもしれない」と平林氏は注意を促す。

 例えば、パソコンや携帯電話にフィルタリングをかけても、それで十分というわけではない。保護者や学校の先生にヒアリングすると、「携帯型ゲーム機に搭載されているWebブラウザーの問題が、ここ半年でよく聞かれるようになった」(平林氏)。夜、寝る時間なのにゲーム機を布団に持ち込み、インターネットで遊ぶのだ。保護者の多くは、そんな機能があることを知らずにゲーム機を子どもに与えている。

 実は筆者にとってもゲーム機は盲点だった。息子のニンテンドー3DSを起動してみると確かにWebブラウザーがあり、使い勝手はパソコン用のブラウザーと少々異なるものの、普通にインターネットにアクセスできた。

 無線LANがないとゲーム機からインターネットには接続できないが、そういう状況でも子どもたちは工夫をする。無線LANにセキュリティがかかっていない家(またはその周囲)に集まって、インターネットに接続するのだ。こういう知恵を上級生が教えてくれるのか、すぐに身に付けてしまう子どもたちを相手に、技術的対策だけで対処していこうとしても、確かに「不毛ないたちごっこ」になりかねない。

子どもたちのソーシャルな問題には、親たちもソーシャルな対応を

 もう一つ、平林氏の話で印象的だったのは、「小学校高学年にもなると、ネット上の広場(SNS的なWebサービス)に集まってチャットすることに夢中になる子どもが多い」という状況だ。大人がSNSに夢中になっているのだから、子どもがそうなっても不思議ではないが、予想以上に低年齢であることに驚いた。

 ネット上の広場はたいてい不特定多数の人が集まる場だが、子どもたちは会話がのぞかれていることをあまり意識しておらず、それが様々な形でトラブルになることがあるという。そういう場合の対処法も、環境の変化を意識させられる。平林氏は「子どもの遊びがソーシャル化しているので、何か問題が起こった時は、親たちもソーシャルなアプローチで働きかけていく必要がある」と話す。よく言われるように、学校で流行っている遊びを一部の子どもだけが禁止されたら、その子どもが孤立してしまうかもしれない。一部の家庭だけで対処しようとすると副作用があるかもしれないので、「やるなら一緒に遊んでいる子どもたち全員の親で話し合い、連携して対処したほうがいい」(同)という。

 さて、ここで本稿の最初に示した問いに戻ろう。子どもが何歳になったら「インターネットの安全教育」をしたり、「コンテンツフィルタリング」をかけたりすべきなのか。子どもたちを取り巻く環境は、やはり筆者の予想を上回るスピードで変わっていた。したがって、子どもが小学校に上がったらインターネットの危険性について十分に意識し、基本的な対策はすべきだと思う。

 ただし、子どもたちを取り巻く環境の変化ばかりを見ていると、本質的な対処を見失いかねないという。今、子どもたちにITリテラシーを啓蒙する現場では、「インターネットの普及により変化したこと」よりも、「不変なもの(モラルやコミュニケーションの仕方など)」の教育に重点を置くべきと考える傾向が強い。

 「異性への関心や冒険心、みんなと一緒に遊びたいといった気持ちは、昔から子どもが普通に抱くもの。インターネットがない時代は、別の手段で満たそうとしていたはず。今、インターネット上でそういう問題が起これば目新しい印象を持つだろうが、本質的なことは昔と変わらない。それなのに、パソコンや携帯電話を禁止することで解決したように思ってしまうとしたら、いかがなものか」(平林氏)。インターネットが子どもの身近にあり、環境やコミュニケーションの仕方が変化している点は十分に配慮すべきだが、問題の原因を取り違えてはいけないということだ。

 平林氏は、「今、子どもが何に関心を持っているのか、どんな遊びをしているのか見守ってほしい。そして何か問題になりそうなことがあるなら、子どもと大人の信頼関係のもとで、ゆるやかに対処してみてはどうか」と話す。